丑の刻参りで逮捕される!「呪いと刑法」の意外な関係とは?
――刑事事件に詳しいライターが、丑の刻参りの歴史と事件、呪いの罪について迫る!
■今なお残る、日本伝統の呪術「丑の刻参り」
人を自由に操ったり、殺したりする呪術は世界中に存在している。日本でも様々な呪術があるが、原型は平安時代に生まれたといわれる。その中でも、江戸時代にその手法が確立されたとされる“丑の刻参り”は、最も有名で今でも行う者が後を絶たない。
■丑の刻参りのお作法~どんな姿で行うのか? ~
丑の刻参りとは、藁人形に恨みの念を込める呪法である。まずは藁人形を作らなければならないが、材料に藁を使う以外、特別な取り決めはないようだ。
藁を束ねて人の形に見えるように糸で括っていくのだが、簡単な方法を紹介しよう。
・藁人形の作り方
まず糸で両端を括った、長さ20~30cmほどの藁束をふたつ用意。その藁束を十字架型に交差させ、接触部を糸で縛って固定する。その十字架になった藁束の一番長い一端を、半分に割れば「足」が出来る。これで藁人形の完成だ。
藁人形には、呪いたい相手の髪の毛や爪を入れるという作法もある。だが、相手の名前や写真を張るだけでよいという説もあり、どちらが正統であるかはハッキリしない。確実性を高めたいのであれば、両方用意した上で藁人形を作った方がいいだろう。
・衣装
そして丑の刻参りに出かけるときの衣装は、白装束を纏うことになっている。白い衣装であればなんでもいい、というわけではなく、神社の神主や昔の修験者が着用していた白い単衣の正式な白装束が必要だ。
・小道具
さらに小道具として、五徳(ごとく)と呼ばれる昔の調理器具を逆さにして頭に被る。五徳には三本の足がついているため、その先にろうそくを差し、火を灯すのである。
・顔、メイク
髪の毛は乱れ髪の蓬髪でなければならないとされている。また顔にも化粧を施すとされるが、真っ白な白粉を顔中に塗る説と、真っ赤な紅を顔や身体に塗る説があり、どちらが正統なのかは不明だ。その他の小道具として、口に櫛や両端に火をつけた細い松明を咥えなければならないという説もある。
・最後に釘の用意
また最後に忘れていけないのは、作った藁人形を打ち付ける五寸釘と金槌だ。五寸釘というのはセンチに直すと15.15センチもある釘だ。現在では余程大きなホームセンターでなければ、扱っていない可能性がある。金槌に関しては特に指定はないため、釘さえ打てれば、木槌だろうが、プラスチックハンマーだろうがかまわないようだ。ただ、雰囲気を出したいのであれば、木槌がオススメである。
ひと通りの準備を終えると、一本歯の下駄か高下駄を履き、丑の刻参りに出かけるのだ。
■丑の刻参りのお作法~いつ、どうやって行うのか? ~
丑の刻参り…と言われるため、もちろん相手を呪う儀式は、「丑の刻」に行う。丑の刻というのは現代の時間に直すと午前1時から3時ごろが当てはまる。真夜中に神社の御神木を白装束で訪れ、そこに藁人形をあてがい、憎い相手へ恨みの念を送りながら、五寸釘を打ち込んでいくのである。
この儀式を7日間続けると、悲願は成就されるという。だがその反面、丑の刻参りをしている姿を人に見られたら効果がなくなるとされている。しかも近年では、効果が無くなるどころか、呪いの念が自分自身に返ってきてしまうという物騒な説も唱えられており、人を呪わば穴二つの事態になることもあるという。
■丑の刻参りの刑法学 ~呪いで人を殺すと捕まらない?~
恐ろしい呪術である丑の刻参りは、今現在も実行している人がおり、神社や寺の裏林の木に時折、五寸釘で藁人形が発見されるという。
呪術によって人を殺そうとする行為が止まない大きな理由は、
“呪術で人を殺しても殺人罪に問われない”
ためだろう。
日本をはじめ、多くの先進国の現代刑法は、オカルト現象を否定している。科学的かつ合理的な方法でなければ、いくら殺意があっても相手を殺した証明ができない。そのため、呪いで人を殺しても殺人罪では捕まらないのだ。
司法の世界ではこれを“不能犯”と呼び、科学的に不可能だとされる方法で相手を殺したと言い張る者がいた場合も
「それは恨んでいた相手が、たまたま死んだだけ」
という解釈をされるのである。
■丑の刻参りの刑法学 ~殺人罪で捕まらなくても、他の罪には抵触する~
では、丑の刻参りを行い、刑法的に全然問題ないかといえば、そうではない。実は他の法律にはしっかり引っ掛かり、悪質だと判断されれば、逮捕の可能性も出てくる。上記のお作法通りに丑の刻参りを行った場合に抵触する法律は、
・不法侵入罪
・器物破損罪
・脅迫罪
の3つだ。
不法侵入というのは、私有地内に勝手に侵入する行為。神社や寺は一応、誰でも入れるオープンな場所ではあるが、多くの神社や寺は私有地だ。そのため、裏林の木や御神木などを目指し、夜中に侵入する際に発見された場合、管理者が警察へ通報すれば、不法侵入罪が成立してしまう。丑の刻参りを人に見られると、帰ってくる災厄はこのこと……、ではないだろうが、夜中にお寺などをウロついていると、違法行為として咎められるのは当然だ。
次に器物破損罪である。丑の刻参りは、他人の所有物である樹木に、断りもなく釘を打ち込むため、立派な破壊行為に当たる。器物破損罪は親告罪なので、被害者が警察に告訴しない限り、事件化することはないが、7日間も連続して木に釘を打ち込んでいれば、不法侵入罪と同じく通報されてしまう可能性が高い。
最後に脅迫罪だ。この刑罰が丑の刻参りに適用されるのは、ひとつ条件が必要なる。それは、
“自分が丑の刻参りをして、呪っていることを相手に告げる”
場合に限られる。
丑の刻参りをしているという不気味な行為が、相手に恐怖感を与えるからこそ成立する。従って、丑の刻参りを行っていることが相手にバレなければ、この罪も適用されないのだ。
■丑の刻参りはホントに効くのか? ~実録!丑の刻参り脅迫事件 ~
さて、そんな丑の刻参りは昔から行われているが、実際の効果はあったとも、ただの迷信だとも言われている。ところが、昭和29年に丑の刻参りによって、ホントに体調を崩した男性がおり、呪いをかけた女性が脅迫罪で逮捕されるという事件が起こっている。
被害者は当時、秋田市に住んでいた男性。女性関係のもつれから恨みを買ってしまい、女性が丑の刻参りを始めた頃から、胸の痛みに襲われ、倒れてしまったという。医師に診断を受けるも原因は不明で、恐怖のあまり男性が警察に相談したため発覚したそうだ。
これはオカルト事件に一切関知しない現代警察が、超常現象の捜査をした数少ない事例だ。捜査の結果、丑の刻参りをしていた女性を脅迫罪で逮捕している。
この判例が元になって、今でも呪っている相手に、
「お前を呪っているぞ」
と告げると、脅迫罪が適用されるようになった。また言葉で告げるだけでなく、藁人形などの呪いのグッズを送りつけても適用される。
呪っていた女性が逮捕された直後から、男性の胸の痛みはなくなり、無事社会復帰できたというが、彼の不調の原因がホントに呪いの力であったかは、今となってはわからない。
ちなみに、もし呪われたらどう対処すればよいか? 解呪法をネットで検索し、シロウト考えで夜な夜な試してみるよりも、警察に通報して脅迫罪でしょっぴいていただくのが一番無難な解決法だと思われる。
※この記事は2014年8月27日時点の情報です。適法性・有用性を考慮し、ご自身の責任のもとご利用ください。
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