【故宮展】中国・宋時代の青磁の素晴らしさを知ってる? 繊細な技術と超絶技巧に迫る!

■「青磁無紋水仙盆」の美しさと卓越した技術

 まずは、こちら「青磁無紋水仙盆」をご覧いただきたい。

【故宮展】中国・宋時代の青磁の素晴らしさを知ってる?  繊細な技術と超絶技巧に迫る!の画像2画像は、国立故宮博物院HPより

 貫入と呼ばれるヒビがまったく見られない。この吸い込まれるようなターコイズを何と表現して良いのか、つるんとした肌合いといい、にごりのない青といい、もはや人の手によって作られたとは思えない。

 青磁は「雨上がりの晴天の青」を理想とするというが、まさにこの「青磁無紋水仙盆」はその言葉通りのもの。どれだけ見続けていても飽きることがなく、見るほどに色が移り変わるさまは、どう表現してよいか言葉が見つからないほどだ。

 先にも申し上げたように、磁器に使われる土はカオリンと呼ばれるもので、石の粉が練り込まれたものだ。カオリンというのは、有名な景徳鎮の近くにある高嶺(かおりん)から産出されたのだが、その地名が磁土の呼び名となり、どこで採られた土でもカオリンと呼ぶようになったわけだ。

 さて、青磁の成分中で色を決定するのが主に鉄分だ。周知のように、鉄は酸化すると赤くなる特徴がある。血液が赤いのも、ヘモグロビンが鉄分と酸素が結びついたからであるが、焼き物でも弁柄色と呼ばれる色がそれだ。

 ところが青磁の場合どうかというと、窯の中の酸素を極限まで抑えながら高温で焼き上げるという、矛盾したテクノロジーによって作られる。酸素と結びつくと赤くなってしまう鉄分を、青色へと変えるためだ。まるで一流アスリートの高地トレーニングのような鍛練ではないか。

 還元焼成と呼ばれるこの技法は当然ながら大変難しいとされ、時間をかけてゆっくり1300度くらいまで焼き上げられていく。

【故宮展】中国・宋時代の青磁の素晴らしさを知ってる?  繊細な技術と超絶技巧に迫る!の画像3画像は、『堪能故宮in台北―半日で巡る故宮博物院の精華』(まどか出版)より


■東アジアで最も繊細な技術を誇った中国

 宋朝から約300年後、桃山時代の日本で同じものを作ろうとしたものの、酸素と結びついて黄色くなってしまい、どうにもうまく焼けなかったそうだ。その時、われらが祖先。失敗したので割ってしまおうとしたところ「よく見るとけっこう良いじゃないか」と言い、黄瀬戸と銘打って名産品にしてしまったのだから、何とも大らかでしたたかな話である。官僚による基準が異常なまでに厳しかった中国の陶磁器と違い、昔の日本人は意外に融通が利いた人たちだったというわけだ。

 中国、朝鮮、日本という、東アジア3国の陶磁器を並べらて見ると、いちばん繊細で完成度の高いのはメイド・イン・チャイナの焼き物だ。中国大陸から朝鮮、日本へと渡るたび、形がユルく甘くなり、絵柄も大ざっぱになる。芸術性でどれが上とは決められないものの、少なくとも技術的な完成度は中国のものがダントツだ。これは私たちが知っている、偽装やら毒入りなんとかといった中国製品のイメージとは180度違う。

 ひとえにこれは皇帝がパトロンで、時として釉薬(ゆうやく)に瑪瑙(めのう)を溶かして使うといわれる昔の陶磁器と、現在、市販されてる格安の中国製品ではワケが違う。もともと中国人は精緻をきわめた超絶技巧の手技に優れていている。ひとたびミッションが与えられたら、技巧をどこまで昇華させていくか、とことん追求することに情熱を費やす人たちなのだ。

 日本の場合は、絵柄も細密描写に走る中国の絵付けとは異なり、たとえば尾形乾山の単純な線には日本人ならではの味わいがある。乾山作品は真似して描きやすいのか、贋作が多いのが困りものだが、このあたりに日本がアニメ大国となった素養があるのだろう。こと焼き物などの工芸品においては、中国人の方がきまじめで、日本人の方がちゃっかり力を抜いているのが面白い。

 そんなことを知りながら台北國立故宮博物院、回覧してみるとより興味深くなるというもの。釉薬に瑪瑙を入れたともいう青磁の数々、九州に行かれる方は「肉」だけでなく、こちらもぜひご覧あれ。

■小暮満寿雄(こぐれ・ますお)
1986年多摩美術大学院修了。教員生活を経たのち、1988年よりインド、トルコ、ヨーロッパ方面を周遊。現在は著作や絵画の制作を中心に活動を行い、年に1回ほどのペースで個展を開催している。著書に『堪能ルーヴル―半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』(まどか出版)、『みなしご王子 インドのアチャールくん』(情報センター出版局)がある。
・HP「小暮満寿雄ArtGallery
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