日常に潜む殺人兵器 ―写真家エド・ジェームスが選ぶ、この世で最も不穏な殺人兵器Top10

■最後に架空インタヴュー

 ふうっ、くたびれた。おや、あそこにたたずんでいるのは、もしかして、当の作家さんでは…。よおし、質問してやろうっと。以下、Mは翠の略、筆者です。

M:おはこんばんちわ、ジェームスさん。いきなりですけど、この展覧会の意図をお聞かせ願えませんか?

Ed:君がだれだか知らないけれど、ま、いいや。うーん、そうだな。僕は16歳で学校を辞めちゃってね。それから建築現場で働いたんだ。屋根職人とかしてね。写真に興味が湧いてきたのはそれからで、学校に戻って始めに美術、ついで写真や映像を勉強したのさ。

M:それで、カメラマンになったんですね?

Ed:そう。でね、18年くらい広告写真でメシを食ってくうちに、なんというか、コマーシャリズムを離れた仕事がしたくなってきちゃった…。

M:ハハァン、だからアートに? そういえば、あなたの写真はコンセプチュアリズムというかミニマリズムっぽいですね。

Ed:うーん、そういうのとは…ちがうかな。僕がしたいのは、モノと人間の関わりみたいなことなんだ。それで、ほら、こんな「奇妙な武器」で起きた殺人事件をネットで調べるうちに…。でもね、事件に使われたホンモノのブツは手に入らない。っていうか、決して、それ自体が必要なわけじゃないことに気がついたのさ。

M:モノと人の関係って? どゆこと…。

Ed:僕の写真は、見る人たちを不安にし、挑発するものであると同時に、好奇心をそそるものであってほしい。そのために、なるべく事件をシンプルにしてみたんだ。事件のあった場所や加害者・被害者の年齢や性別を記号みたいに扱うことで、ブツに照明が、そう、スポットライトが当たるように…そんな風にしてみた。

M:モノをくっきりと浮かびあがらせようと…?

Ed:「武器」はフツー、証拠でしかないだろ。事件の主役は動機・被害者・量刑だろう? だからこそ、「奇妙な武器」であるブツに異例の照明をあてることで、犯人がそれを使ったやり方をはっきり映し出してみたかったのさ。

M:写真の品々は、実際に殺人に使われたものではないんですね?

Ed:うん。僕はね、まっさらな日常のブツを、スタジオで撮影した。これが「奇妙な使用方法」をあぶり出す、最良の方法になるだろうと思ってのことさ。

M:なあるほどなぁ。もし、目の前に、実際に殺人で使われたモノがあったら、うわあぁ、これでねぇ…ってな具合に考えこんじゃうけれど、それによく似たブツの写真を展示することによって…現実をいったん遮断し、その記号形態という迂回路を通して、再び現実に働きかける…? これ、もしかしてシミュラクル(模像)ってやつ?? 現代美術の手法の1つじゃんかよぉ…。

Ed:おいおい、独りでなにをブツブツ言ってるんだ? ぼくの作品、気に入らないのかい?

M:ややややや、決してそんなことは! あ、では、最後にもう1つだけ、よろしいでしょうか? もしかして、あなたはイギリス人ではありませんか?

Ed:ああ、そうだけど、それがどうした?

M:いえいえ、こっちの話(しかし、ヘソ曲がりが多いよなぁ、アングロ・サクソンって)。えーと、今日は色々ありがとうございました(コンセプトはいまひとつ、よくわかんなかったけど、作品自体はすごく面白かったです)。今後のますますのご活躍をお祈りいたします。
(文=石川翠)

※写真は、Ed Jamesご本人の許可を得て掲載しています。氏の作品の数々は以下のURLをクリックしてご覧下さい。

画像協力:『edjamesphotography.com』

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