がん予防は無意味? 「がんに罹るのは、単なる生物学的な不運である」
習慣的な喫煙や飲酒、偏った食事、過労、不規則な生活スタイルなど、がん発生の“容疑者”には様々なものが挙げられている。一方で不健康の塊のような人物が意外にもがんとは無縁であったり、健康そのものの生活を送る人が突然がんを発症したりすることも事実だ――。そんな中、先頃発表された論文が「がんになるのは単なる生物学的な不運である」と主張していることから大きな反響を呼んでいる。
■ほとんどのがんは運悪く発症
今月2日、科学誌「Science」に発表された論文で、米ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームはガンの発生を説明する数式を提案している。
論文には分かりやすいグラフ(散布図)が使われている。31種類の臓器の生涯における幹細胞分裂の回数を横軸とし、臓器ごとのがん発症確率を縦軸にして各臓器を配置したグラフで、ほぼキレイな右肩あがりの散布図になっている。つまり単純に、幹細胞の分裂回数の多い臓器ほどがん発症のリスクが高いということだ。大腸(結腸)がんや肺がんなどのメジャーながんはやはり幹細胞の分裂回数が多いことが如実に分かるようになっている。
幹細胞の分裂回数が多ければそのぶん、分裂時に突然変異する確率が上がり、結果的にがんの発症リスクも高まるということになる。研究チームはこの統計理論で3分の2のガンの発症を説明できるという結論に達したということだ。また、この統計を作成する際に使った過去のがんに関するデータの中には品質に問題があるものが少なくないことから、この理論で説明できるがんは実際には3分2を大きく上回る可能性があることも示唆している。
そしてこれはつまり、少なくとも3分の2のがんは、これまでがんの重要な発生要因と考えられてきた喫煙習慣や放射線被爆などの外部因子や遺伝的要因などにはまったく関係がないことを示すことになるのだ。
研究チームの中心であるヴェート・ボーゲルシュテイン氏とクリスティアン・トマセッチ氏は、「ほとんどのがんは運悪く発症します」と述べ、また「これは細胞分裂を必要とする生物につきまとう共通のリスクなのです」と結論づけている。
■がん研究者の反応は様々
今回の発表を受けて、他の学者たちの反響も大きいようだ。
「細胞の突然変異とがん発症には必ずしも直接的な関係性はない」とやや疑問の声を上げているのはケンブリッジ大学で長らくがん研究を行なっているブルース・ポンダー氏だ。「細胞組織の中で突然変異が保持されるかどうか、またそれが悪性のガン細胞になるかどうかは、おそらく別の要因があります」と否定的な見解を表明している。
一方、「この理論は実に魅力的なアイディアです」と肯定的に語っているのはオランダ・ユトレヒトのヒューブレヒト研究所の生物学者、ハンス・クレバース氏だ。「しかし今のところ完全に(この理論の信憑性は)データの品質に左右されてしまっていますが……」と、今後さらに理論の精度を高めていかなくてはならないことを指摘している。
また、米メリーランド州ベセスダにある「アメリカ国立がん研究所」のダグラス・ロウリー氏は、この理論に大筋で同意していながらも、「がん予防に対する取り組みはこれまで通り続けなければならない」と強く主張している。
がんに罹るかどうかは“運次第”という確率論的な結論を導き出した今回の研究だが、従来から行なわれれる予防医学を否定するものではないということだろう。そしてこの結論によって逆説的に慰められるのは、がんに罹ってもたいていの場合はこれまでの本人の生活態度や習慣のせいではないという点だ。とはいえ、いったん罹ってしまった事実を帳消しにすることはできないのだが、自分を責めなくてもいいということは、その後の闘病生活に大きな影響を与えるかもしれない。
参考:「Science」ほか
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