【イスラム国事件】なぜ湯川さんと後藤さんの2人は殺されなければならなかったか? アメリカを意識しすぎた日本の誤算とは?

■最重要人物を解放交渉に利用しなかった日本政府

 日本政府は、湯川さんと後藤さんを解放するために各国に働きかけていると説明してきたが、イスラム原理主義に詳しい公安関係者Bさんは、「片手落ちの対応」と非難する。

「ISと最も近い日本人は元同志社大学客員教授の中田孝氏です。彼は自身が話したように『イスラム国へ行く用意』があったでしょう。彼が行くことで解放されたかどうかは、別にして。

 しかし、日本政府、特に外務省がなぜ中田氏を交渉役として使わなかったのか。それは中田氏がアメリカから“テロリスト”、少なくとも“テロ支援者”とみられているからです。

 中田氏はISが主張している「カリフ制」【註:預言者の代理人がイスラム共同体の指導者となる政治制度】を支持しており、IS支配地域に何度も渡航して軍事指導者と接触する、IS入りを希望する日本人を仲介するなどしています。これはグローバル・スタンダードで言えば、十分に“テロリスト”なんですよ」(B氏)

 Bさんの話が本当だとすれば、日本政府は日本人の命よりも、アメリカの顔色をうかがうことを優先した形になる。

「外務省はアメリカの対IS戦が開始されるまでは、中田氏をイスラム過激派との仲介役として期待していました。それは、中田氏が在サウジアラビア大使館で専門調査員を務めた経歴もあり、身内意識があったからです。

 外務省は実際に、2012年には中田氏に依頼して、国際指名手配されている国際テロ組織「タリバン」の幹部を来日させ、同志社大学で講演をさせています。外務省は中田氏を通じて、イスラム過激派組織とのパイプを作りたかったんですよ。

 そうそう、一言付け加えたいのですが、ネット上で『湯川氏と後藤氏が日本政府の“秘密機関”の要員だ』とか、『後藤氏が速やかにシリア入りできたのは秘密機関の支援があったからだ』といったトンデモ話が人気を集めてますが、そんな組織はありませんから。けれども、後藤氏が速やかにシリア入りできたのは、某キー局をはじめとしたマスコミが『絵を撮ってくれ』と、資金援助したからだという声はあります」(同)

■海外でテロ組織に狙われる日本人

 ISが「日本は十字軍に参加した」と、日本を敵対視する姿勢を見せたことが、今後、我々日本人にどのような影響を与えるのだろうか。前出のAさんは、厳しく指摘をする。

「ISはシリア、イラクの支配地域のみで活動をしており、今のところは“国際テロ”を指向してないため、この地域に足を踏み入れない限り、テロの標的となることはありません。

 問題は、ISに便乗したテロ組織や犯罪集団に狙われる危険性が高まったということです。特に発展途上国で日本人が狙われる、具体的には身代金目的で誘拐される可能性が高まったと言えるでしょう。

 これから大学生の卒業旅行や春休みを控えて、多くの人が海外に出かけると思いますが、その際には、外務省の『海外安全ホームページ』で渡航先に危険はないか、最近どのような事件が起きているのかを確認するべきです。海外で誘拐されたら、まず、日本に帰って来ることはできませんから」
(山野一十)

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