超天才サルヴァドール・ダリの意外と知らない10の秘密・前編
4、華麗にしてド派手なパフォーマンス
ダリは毎朝、覚めるたびに、画家は当然としても作家、科学者など、その日ごとに、自分がなりたいものになろうとした。彼はなによりもショー・マンであるからだ。
彼のそんなスタントぶりは、その芸術よりもずっと印象的な場合がある。例えばダリは1932年に、古風な潜水服に身を包んで、講演を行うとしたことがある。その結果、窒息寸前になったが、決してスーツを脱ごうとはしなかった。
また1955年のこと、彼はカリフラワーを満載したロールスロイスで、スピーチ会場に乗りつけもした。これは当時、ダリがその形に強く心をひかれていたためだ。彼によれば、微細な同じ形=構造が無限に増殖を繰り返して生成するカリフラワーは、それ自体が、まさに宇宙生成のシンボルとも呼べるものなのだった。後のフラクタル幾何学を、ダリはある意味、先取りしていたのかも。
また、それを上回る、こんなエピソードもある。自分の本、「サルヴァドール・ダリの世界」を売りさばこうと、ダリはマンハッタンのとある書店の真ん中に、病院用ベッドを持ちこんだ。そして自らそこに横たわると、まわりには彼の脳波を計るニセの医者と看護婦をはべらせてみせた。なんと、これは、本を買ったお客はもれなく、ダリの脳波のコピーがもらえるという珍奇なサーヴィスだったのだ。
5、ヒトラーに魅せられて
ダリほどに、あのヒトラー(Adolf Hitler/1889─1945)に魅せられた芸術家はまれだろう。彼がこのナチスの専制君主にとり憑かれたのは、おそらくは、ヒトラーの中に時代の不安そのものの顔を見たせいかもしれない。あるいは、善なる兄との比較に悩まされつづけたヒトラーにシンパシーを感じたためだろうか?
ナチス・ドイツの台頭中、ダリの仲間のシュルレアリスト(超現実主義者の芸術家)たちは、ファシズムとヒトラーからなるべく距離をとろうとした。なのに、ダリは反対に、好んでヒトラーを描きだしたのだった!!
最初の〈ヒトラー画〉は風景画で、題名は「ヒトラーの謎」(The Enigma of Hitler)。1939年に制作された。全体的にダーク・トーンの寒々としたもので、湾を背景に、奇妙な荒野が広がっている。溶けた受話器。大きなお皿。その端に、ヒトラーの小さな写真が描かれている。まさしく謎だ。ダリはなにを訴えたかったのだろう…。
後に、ヒトラーの魅力について尋ねられたとき、ダリはこう答えた。「巷(ちまた)の男たちが美しい女たちを夢見るように、わたしはしばしば、ヒトラーに恋焦がれていたのだ」と。
…と聞けば、読者の中にはヤマシい想像が頭を巡る人もいるかもしれない。だがダリは続けて、
「ヒトラーはわたしを最も高い場所に誘ってくれる。彼の厚い背中、とりわけ身につけたサム・ブラウン・ベルトとショルダー・ストラップできつく締めあげられたその肉体は、私の口の中に美味なる味覚のスリリングな発動を、またワグナーの音楽さながらのエクスタシーを呼び起こすのだ」
常人にはいささか判断つきかねるレベルで心酔していたのかもしれない。確かに、ファシズムとはあんまり関係なさそうだ…。
ダリが描いた〈ヒトラー画〉の最後の1枚は、1973年の「自慰をするヒトラー」(Hitler Masturbating)。残念なことに、ごくフツーの絵に過ぎず、シュールっぽさはほとんど見当たらない。が、ありがたいことに、ヒトラーの〈男性自身〉は、金属製の足をした小さな馬の背後に隠れていて、よくは見えない。
(文・構成=石川翠)
参照サイト:「Listverse」
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