「ストランドビースト」歩行する風の獣たち ― テオ・ヤンセンの空気圧生命体

 なっ、なんだぁ? このケッタイなやつらは!!

 昨年暮れに中外製薬のTVCFでフューチャーされた、浜辺をてけてけと走りまわる、白い帆をかけたカニやゲジゲジみたいな生き物たち……。ご存じでしたか? これは、オランダのキネティック・アーティスト、テオ・ヤンセンの創りだした新生命体だったんです。筆者もまた、彼らのあまりの可愛らしさにかぶれてしまったひとり。

■アーティスト テオ・ヤンセン

 25年ほどの間、オランダのテオ・ヤンセン(Theo Jansen/1948─)は、全身全霊を新しい生命の創造に捧げてきた。彼の創りあげた「ストランドビースト(Strandbeest=浜辺の獣を意味するオランダ語。英語だとbeach animal)は、遠目には巨大な昆虫や先史時代のマンモスの骨格に見えることもあるが、柔らかいプラスチック・チューブに粘着テープなど現代の工業化時代の素材でできている。

 彼らは始め、アルゴリズムとしてコンピュータの内部に生まれたが、歩くためのエンジンやセンサー、また他のいかなる先進技術も備えていない。ストランドビーストは、彼らの棲み家であるオランダの海岸でとらえた風と、湿った砂のおかげで移動することができるのだ。

 イーペンブルグの研究室で、ヤンセンは生物進化の歴史を学び続けている。それは、新世代のビーストたちにより大きな能力をあたえるためだ。彼の夢はいつの日か、風を食べる生き物たちが自ら進化し、自然のサイクルに溶け込んだ新しい生物の一種として、地球に同化して生きる術を学ぶことにある。

 ヤンセンの生き物の美しさを目にする者はだれでも、エンジニアであり科学者でありアーティストでもある彼の〈被造物〉が、なにか特別の存在であることに、はたと気づく。

 だが、そのユニークな仕事は10年以上もの間、まったく陽の目を見ず、国際アート・コミュニティによって発見されたのは、ほんの最近のことに過ぎない。この10年、急激なデジタル革命に目がくらみ、ロボット芸術の分野における彼の制作物を、同時代の他の人々の洗練された作品と見比べ、まるで前時代的なものと思い違いをしてきたためにほかならないためだろう。

 だが今日のような、持続可能性の追求を念頭にした時代になると、技術と自然の共存が課題であるため、彼のデザイン戦略は突如、最重要視な成果として浮上してきているのは間違いない。

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