呪われた世界遺産「マダイン・サーレハ」~人跡未踏の砂漠に広がる壮麗な奇観~

呪われた世界遺産「マダイン・サーレハ」~人跡未踏の砂漠に広がる壮麗な奇観~の画像1撮影:羽仁礼

 しばしば混同されるが、「予言者」と「預言者」とは、厳密に言えば意味が異なる。英語ではいずれも「prophet」となるが、日本語で「預言者」と言えば、単に未来の出来事を予言するだけでなく、神の啓示を伝える人物のことを指す。従って、『旧約聖書』に登場するアブラハム、そしてイスラム教を創始したムハンマドも、その意味で「預言者」である。

 イスラム教では、唯一絶対神アッラーこそ、ユダヤ教の神にしてキリスト教の神でもあると考える。故に聖典『コーラン』では、アブラハムやイエスもアッラーの預言者とみなされている。そしてこれらの預言者以外にも、サーレフ(サーリフ)、フード、シュアイブなど独自の預言者を何人も伝えているのだ。


■サムード人と「マダイン・サーレハ」の伝説

 こうした預言者の1人サーレフは、「サムード」と呼ばれる民族に対して遣わされた預言者であり、『コーラン』では第7章、第11章、第26章、第27章などにその業績が記されている。

 それらの記述によると、サーレフは他の幾多の預言者と同様、唯一絶対神アッラーを崇拝するようサムードの人々に呼びかけた。アッラーは徴(しるし)として、山の中から1頭の雌ラクダを生み出したが、サムード人はこのラクダを屠殺してしまった。すると神の罰がたちどころに下り、サムード人たちは、サーレフに従う少数の者を除いてすべて滅びてしまったという。

 そして彼らの故地には、人の住まない荒れ果てた石の廃墟だけが残った。以来この場所は、神に呪われた忌むべき地として、アラビア語で「マダイン・サーレハ」すなわち「サーレフの街」と呼ばれて畏怖されるようになった。

 この、イスラム版「ソドムとゴモラ」ともいうべき伝説こそが、現在もサウジアラビアに残る大規模な遺跡「マダイン・サーレハ」の起源譚である。

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