科学ライターがイチ推し! 人工知能(AI)映画『チャッピー』は日本でこそ作られるべき作品だった!?

■異形の人間に宿るピュアな精神は人種問題のメタファー?

 大筋はポール・バーホーベンの『ロボコップ』(1987年公開)の本歌取りで、企業が警官を作る(!)ところから、ギャングとの抗争、裏切られてボロボロになるロボット、警察が無力化するところまで感心するほど話をなぞっている。ただし設定は真逆だ。ロボコップは人間が機械になる話だったが、チャッピーは機械が人間になる話である。同じストーリーでも設定を真逆にすると、こんなにも印象が違うのか。人間となった機械の哀愁は機械が人間になろうとする過程で見える人間の残虐さ、滑稽さに置き換えられ、今の時代にふさわしい寓話になっている。

 チャッピーのデザインは士郎正宗の『アップルシード』に出てくるブリアレオス(AIではなくサイボーグである)からとっている。ロボコップのデザインが日本の宇宙刑事シリーズからとられた(バンダイから許諾を得ている)のと同じで、日本のロボット作品に対するオマージュだ。顔面の保護用フレームで喜怒哀楽の表情が生まれているのが憎い。敵ロボットのムースは、ロボコップのED-209と酷似したデザインで、そのやられっぷりまで、ロボコップのファンにはたまらないはず(私は思わず拍手した)。

 ラストシーンへと至る、異形の人間にピュアな精神が宿るという設定は、『第9地区』から続くブロムカンプ監督のテーマであり、人種問題のメタファーでもある。派手な娯楽作品を通じて、人間とは何か? という問いに踏み込もうとした監督の力技には驚嘆させられた。

それにしても士郎正宗がいかに天才か、本作で改めてわかった。時代を20年先取りしていた。ギャングの真似をするチャーミングなチャッピーとド派手なアクション、しっかりした設定、こういう話は士郎正宗を生んだ日本でこそ作らなければならないのではないか。この夏、アクション好き、SF好きは必見の一作だ。
(文=川口友万/サイエンスライター/著書『大人の怪しい実験室』)

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