静寂が示す海洋生態系の“リアルな危機”… なぜシロナガスクジラは歌うのをやめたのか?

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Image by Three-shots from Pixabay

 地球最大の動物、シロナガスクジラ。その雄大な歌声が、海から消えつつあるという。科学者たちが設置した水中マイクが捉えたのは、かつてないほどの静寂だった。この不気味な変化は、私たちの海が深刻な危機に瀕していることを示す警告サインではないか――研究者たちの間で警鐘が鳴らされている。

飢えながら歌うことはできない

 モントレーベイ水族館研究所の研究チームは、カリフォルニアのモントレー湾沖に設置した水中マイク(ハイドロフォン)を使い、長年にわたって海の音を記録してきた。クジラたちは、仲間とのコミュニケーションや繁殖相手探し、航海のために、この低周波の歌を頼りにしている。

 ところが、最新の調査で驚くべき事実が判明した。過去6年間で、シロナガスクジラの歌声が約40%も減少していたのだ。

 研究者の一人であるジョン・ライアン氏は、「熱波は有毒な藻類を大量発生させ、生態系を汚染しました。これは記録史上、最も広範囲にわたる海洋哺乳類の被害でした」と語る。クジラが歌わなくなった理由を、彼はこう表現する。「まるで、飢えながら歌おうとしているようなものです」

 普段なら漁網がピンク色に染まるほど大量にいたオキアミは、熱波の間に姿を消してしまった。餌を探すのに必死なクジラたちには、もはや歌うためのエネルギーも時間も残されていなかったのだ

静寂は世界中に広がっている

 この問題はカリフォルニアだけの話ではない。南太平洋、南極海の一部、そしてアルゼンチンの沖合でも、同様の沈黙が報告されている。

 ニュージーランドの海域でシロナガスクジラの生態を調査していた研究チームもまた、意図せずして海洋熱波の影響を目の当たりにした。海水温が異常に高かった年には、餌を探す鳴き声も、繁殖期に歌われる歌も著しく減少していたという。

「餌を十分に得られない時、彼らは繁殖にかける労力を減らします」と、調査を主導したドーン・バーロウ氏は説明する。

 興味深いことに、同じ海域に生息するザトウクジラの歌声には変化が見られなかった。彼らは食性が多様で、厳しい環境にも適応できるためだ。一方で、ほぼオキアミしか食べないシロナガスクジラやナガスクジラは、餌の激減によって直接的な打撃を受けたのである。

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イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI)

海の“番人”が告げる地球の危機

 なぜクジラの沈黙が、これほどまでに重要視されるのか。それは、彼らが海の健康状態を映し出す「番人」だからだ。広大な海を回遊し、生態系の頂点近くに位置する彼らの行動は、海洋環境全体の健全性を示す貴重な指標となる。

 海洋生物学者のケリー・ブノワ=バード氏は、「海洋熱波がもたらす影響は、生態系全体に及びます」と警告する。広大な北米の西海岸全域を回遊してもなおクジラが餌を見つけられないという事実は、もはや局所的な問題ではなく、海洋全体を揺るがす大規模な異変が起きている証拠に他ならない、と彼女は指摘しているのだ。

 クジラたちの沈黙は、彼ら自身の苦境を物語るだけでなく、気候変動が加速する中で、私たちの海が直面しているより深い危機を浮き彫りにしている。クジラが発する静かな警告に、私たちは今こそ耳を傾けるべきなのかもしれない。

参考:Daily Mail Online、ほか

TOCANA編集部

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