AI時代「マンデラ効果」による全人類的な“記憶汚染”が始まる?

イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI)

 生成AIの普及はすでにさまざまな影響をもたらしているが、集団的な偽の記憶である“マンデラ効果”の頻発に繋がりかねないと懸念が深まっているようだ。

■生成AIで“マンデラ効果”が頻発!?

 元南アフリカの大統領、ネルソン・マンデラ氏が2013年に95歳で亡くなったというニュースが流れた時、世界中で多くの人々が狐につままれる体験をしたと言われている。実に多くの人々が、マンデラ氏は1980年代に獄中で亡くなったと思い込んでいたのだ。このケースから集団的な記憶違いのことが“マンデラ効果”と呼ばれるようになった。

 ゲームキャラクターのピカチュウの尻尾の先が黒い(実際は黒くない)と多くが思い込んでいることなどが最近の“マンデラ効果”の例だが、生成AIが登場している昨今にあって、一部の専門家は今後さらに“マンデラ効果”が頻発して問題になってくると指摘している。

 生前の教皇フランシスコが大きく真っ白なバレンシアガ風のダウンジャケットを着ているという生成AIが作成した画像が一昨年前に話題になったことがあるが、多くの人々を楽しませた一方で、肖像権を簡単に脅かす技術として懸念を深めることにもなった。

 この教皇フランシスコの画像について、米メリーランド大学情報学部でAI、SNS、そしてオンライン上の信頼を研究するジェン・ゴルベック教授は「おそらく、その画像を見ても、それがAI生成画像だと気づかなかった人もいるでしょう。人々が疑わしいと認識しているにもかかわらず、全く気にしない人もいるということで、今はきわめて興味深い時代です」と語る。

 AI画像を見抜くのが得意だと自負する人々でさえ、その“鑑定”はますます難しくなっていると言える。AIを活用して現実と見分けがつかない映像や音声を生成するディープフェイク技術や、AIが生成して拡散する“フェイクニュース”などもすでに深刻な脅威となっている。

 生成AIは現在進行形で進化を続けているため、研究者たちはその将来的なリスクについてまだ特定できておらず、イタチごっこのような様相を呈している。そして一部の研究者はこの技術が個人の虚偽記憶と“マンデラ効果”の両方に与える影響を探求することに現在熱心に取り組んでいる。

© copyright John Mathew Smith 2001, CC 表示-継承 2.0, リンクによる

 ドイツのポツダム大学で社会心理学の教授を務めるアイリーン・オーベルスト氏と、米ダートマス大学のディーパスリ・プラサド氏は両者とも、偽のAI画像が誰かの信念や意見を強化する場合、より容易に信じられるかどうかに興味を持っている。

 オーベルスト氏によると、最大のリスクの一つは、我々の脳は内容よりも情報源を早く忘れてしまう傾向があることにあるという。つまり偽のAI画像がどのようなものだったかは覚えていても、それを素直に信用しないようにすべきだということを忘れてしまう可能性があるというのだ。

 一方、ゴルベック教授はAIが偽の記憶を強化する役割を果たすことができるかどうかに興味を持って研究に取り組んでいるところだ。

 これら研究者たちは、記憶、画像、AI間の相互作用の範囲を理解するには長期的な研究が重要であることに同意している。

 我々の記憶を“腐敗”から守るために今我々全員にできることは何かという点について、ゴルベック氏はコミュニティに頼ることが重要だと語る。

「重要なステップの一つは、本当に信頼できる人々の集団を確立することです。ジャーナリスト、科学者、政治家など、あなたが本当に評価し、たとえ聞きたい情報でなくても正しい情報を教えてくれる人たちです。これが非常に重要だと思います」(ゴルベック氏)

 教皇フランシスコの生成AI画像を本物と思い込む人が一定数以上になるとすれば、AIに起因する“マンデラ効果”が生み出されたことになるのかもしれない。今後ますます増えるであろう生成AIによる画像や映像やテキストにどう対処していけばよいのか、現在の我々にとって喫緊の課題であることは間違いない。

参考:「National Geographic」ほか

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

仲田しんじの記事一覧はこちら

※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。

人気連載

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...

2024.10.02 20:00心霊

AI時代「マンデラ効果」による全人類的な“記憶汚染”が始まる?のページです。などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで

人気記事ランキング11:35更新