「デジタル遮断」を買う人々。デジタルデトックス市場の急成長と、私たちが失った“タダで休む技術”

デジタルデトックスにお金を払う人が急増している。かつての禁煙ブームのように、スマートフォンやアプリから離れるためのビジネスが世界中で拡大中だ。ハードウェア、アプリ、通信サービス、企業のウェルネスプログラム、観光に至るまで、その市場規模は約27億ドル(約4200億円)に達し、2033年までには倍増すると予測されている。
人々はテクノロジーへの依存感から逃れるためなら出費を惜しまない。「Light Phone」や「Punkt」といったミニマリスト向けの「ダムフォン(機能制限された携帯電話)」が高値で取引され、「Freedom」や「Forest」のようなウェブサイト遮断アプリが人気を博している。さらに、テックフリーを売りにした宿泊施設も増加しており、デジタルからの切断が高付加価値な体験として販売されているのだ。
しかし、ランカスター大学の研究チームによる調査では、こうした商業的なアプローチが根本的な解決になっていない可能性が示された。多くの参加者は、自身の自制心を鍛える代わりに、アプリやガジェットに依存して強制的に遮断することを選んでいた。
哲学者のスラヴォイ・ジジェクが「インターパッシビティ(相互受動性)」と呼ぶこの現象は、表面的な解決策に頼ることで、本来向き合うべき問題から目を背けてしまう「偽りの行動」を生み出している。

個人ではなくコミュニティで取り組むアジアの事例
個人の意志に頼るデジタルデトックスが一時的な効果に留まりがちな一方で、アジア太平洋地域では地域全体でデジタル過多に対処しようとする動きが見られる。この地域はデトックス関連商品・サービスの成長市場でもあるが、同時に非商業的でコミュニティ主導のアプローチも進んでいる。
例えば、愛知県豊明市では、市全体でスマートフォンの利用ガイドラインを導入した。ここでは、子供のデバイス利用を午後9時までとするなど、家族でルールを共有することを推奨している。個人の自制心を試すのではなく、地域全体の習慣としてデジタル制限を再定義した例だ。
インド西部の村ヴァドガオンでは、毎晩90分間の「デジタル遮断」が実践されている。午後7時になるとテレビや携帯電話の電源を切り、村人たちが屋外で交流する。パンデミック中に始まったこの習慣は、一人で戦うよりも共に取り組む方が健全なデジタル習慣を築きやすいことを証明している。
また、韓国では2025年に学校でのスマートフォン使用を禁止する法律が可決され、オランダでも同様の政策が生徒の集中力向上につながったと報告されている。

商業的な罠を避け、本当にスイッチを切るために
商業的なデトックス産業の罠に陥らず、健全なデジタルライフを取り戻すにはどうすればよいのか。まず重要なのは、ツールに依存しすぎないことだ。「デジタルウェルビーイング」機能を過信せず、自分の意志でコントロールする感覚を取り戻す必要がある。
また、デトックス中に「自然と触れ合う体験」をしても、それをすぐにSNSでシェアしたいという衝動に駆られては意味がない。体験そのものを味わうことに集中すべきだ。さらに、インドの村の例のように、周囲の人々と協力してオフラインの時間を共有することも効果的だ。自分だけが我慢するのではなく、みんなで一斉にやめることで、スクロールしたい欲求を抑えやすくなる。
最後に、「退屈」を恐れないことだ。私たちは生産性を求めてデトックスしがちだが、哲学者のハイデガーが説くように、深い退屈こそが内省を可能にする貴重な時間となり得る。何もしない時間を積極的に受け入れることが、真のデジタルデトックスへの近道かもしれない。
参考:ScienceAlert、ほか
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2024.10.02 20:00心霊「デジタル遮断」を買う人々。デジタルデトックス市場の急成長と、私たちが失った“タダで休む技術”のページです。依存、デトックス、デジタルなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで