【死刑囚の実像】「全部偽物の証拠ですわ」 ― 妻と娘を殺害した男の罪悪感なき態度とは?
■会うたびに金と甘い物を要求される……
約7カ月後、筆者は再び伊能の面会に訪ねた。伊能はこの日、刑務官が押す車椅子で面会室に現れた。「体調が悪いんですか?」と聞くと、目は宙を見つめたままだが、「大丈夫。薬、もらってるから」と口元をほころばせた。この日は事件に関する疑問も率直にぶつけたが、伊能はよどみなく答えた。
――裁判はその後どうですか?
「1審も2審も何もしゃべらんかったから、今は色々書いてます。何もかもが偽物の証拠やから」
――伊能さんの靴に被害者の血がついていたそうですが?
伊能「あんなのは偽物の証拠ですわ」
――伊能さんの掌紋が現場で見つかったという話は?
伊能「全部偽物の証拠ですわ」
――現場近くの防犯カメラには伊能さんの姿が映っていたそうですが……。
伊能「あんなのは全部人間が違うんです。1メートル80センチくらいあったり、1メートル50センチや60センチだったりするんですから」
――事件直前に伊能さんが包丁を買っていたという話もありますが?
伊能「買うわけない」
つまり伊能によると、有罪証拠は何もかもが捜査当局の捏造だというわけだ。「では、裁判で黙秘した理由は?」と尋ねると、伊能は「裁判では、『無実だから何も出ない。無罪になるだろう』と思ってましたから」と言い切った。本気で自分を無実と思っているのか否かは今も断定しづらいが、罪悪感を覚えていないのは確かだと思えた。
そして面会時間が終了し、筆者が辞去しようとした時、伊能はこう言ってきた。
「お金と甘い物入れて。お金は多めに、甘い物は何品か」
さらに「大福餅があったら入れて」と付け加えられ、筆者はまた心の中がモヤッとしたが、ともかく現金1千円と大福餅、チョコパイを差し入れた。ただ、この日以来、伊能の面会に訪ねる意欲を失った。
■裁判終結後に初めて届いた手紙
伊能から初めて手紙が届いたのは、それから約3カ月後、最高裁が控訴審の無期懲役判決を追認する決定をした今年2月のことだ。それには、再審請求をする意向や、息子や親戚たちが自分の味方になってくれているという真偽不明の話がつづられた上で「案の定」なことが書かれていた。
〈金一ぷうを、ごかんぱしてください。たとえ1万円でも2万円でも、よろしいのですので。〉(原文ママ。以下同じ)
この図々しさにはあきれたが、手紙の末尾には〈親愛なる片岡様、ごかぞくの、お幸せと、ごけんこうを、心から、お祈りいたします。〉〈近々には、かならずや、片岡様との、ご面会が、ととのうよう心から、お待しております〉などと嘘くさいことが恥ずかしげもなくつづられており、苦笑させられた。殺人犯にこんなことを言うのは気が引けるが、愛嬌のある人物ではあった。
この時も現金1千円を同封し、「服役先が決まったら連絡して欲しい」と書いた手紙を伊能に送ったが、当然のごとく現在まで返事は届かない。
(取材・文・写真=片岡健)
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