【本庄保険金殺人】報道は「虚構」まみれ! 死刑囚・八木茂の「クロ」は真実か?
■黒いイメージ
埼玉県本庄市で金融業を営んでいた八木死刑囚に関し、保険金殺人の疑惑が報じられるようになったのは1999年の夏だった。取材が殺到する中、八木死刑囚は愛人女性たちの営む小料理屋やパブで連日、「有料記者会見」を開催。報道陣に「逮捕は100%ない」と豪語し、キックボードに乗ってみせるなどのパフォーマンスを繰り返した。八木死刑囚はこの特異な言動により、マスコミの反感を買い、世間にも「いかがわしい人物」と認識されたのだ。
結果、八木死刑囚は共犯者とされる愛人女性3人と一緒に2件の殺人、1件の殺人未遂の容疑で検挙される。そして2008年に最高裁で死刑が確定。この間、一貫して無実を訴えていたが、有罪に疑問を呈する報道は皆無に等しかった。
では、この事件の実相が具体的にどのように報道と異なるのか。確定判決では、八木死刑囚は保険金詐取目的で計3人の男性を殺傷したとされている。まずはこのうち、前出の佐藤氏の事件に関する報道と実相の違いを見てみよう。
■報道された証拠はことごとく虚構
八木死刑囚に毒殺されたとされる佐藤氏だが、実は1995年に遺体が川で発見された当初は「自殺」として処理されていた。当時の警察捜査では、司法解剖の結果に基づき、佐藤氏の死因が「溺死」と断定されたうえ、遺書も見つかっていたからだ。
ところが、4年後に八木死刑囚の保険金殺人疑惑が持ち上がると、警察は佐藤氏の死の原因を調べ直す。そしてまず、死因を従来の「溺死」から「不明」に変更。紆余曲折を経て、最終的には「佐藤氏は八木にトリカブトで毒殺された」と結論づけたのだ。
当時は連日、こうした警察のストーリーを裏づけるような情報が洪水のように報じられていた。
たとえば、産経新聞(東京本社版)は2000年3月31日朝刊31面で「佐藤氏の遺書は本人の筆跡ではなく、偽造された可能性がある」(要旨)と報道。朝日新聞(同)に至っては、10月20日夕刊27面で「捜査本部が筆跡鑑定を行った結果、佐藤氏の遺書は本人の筆跡と明らかに違い、八木死刑囚の愛人女性の筆跡とほぼ同じであることがわかった」(同)と断定してみせた。さらに読売新聞(同)も10月20日朝刊1面で「捜査本部は八木死刑囚や愛人女性3人の関係各所からトリカブトを押収している」(同)とクロを決定づけるようなことを書いている。こうした報道により、八木死刑囚のイメージは真っ黒に染まっていったのだ。
しかし、裁判資料で確認したところ、実はこうした報道の多くは「虚構」だったことがわかった。
たとえば、裁判資料をひも解くと、検察は佐藤氏の遺書について、佐藤氏が八木死刑囚らに騙されて書いたものだと主張している。つまり、遺書は佐藤氏本人が書いたものであることは検察側も認めているのだ。裁判資料には、朝日新聞が報じていたような筆跡鑑定の話はまったく見当たらない。
また、八木死刑囚や愛人女性3人の「関係各所」からトリカブトが押収されたという読売新聞の報道が事実なら、検察がそれほど有力な証拠を裁判に提示しないことはありえない。しかし、そんな証拠は裁判に一切出てきていないのだ。
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