【本庄保険金殺人】報道は「虚構」まみれ! 死刑囚・八木茂の「クロ」は真実か?

■報道の中にしか存在しない証言者

 確定判決によると、残る2人の被害者、元パチンコ店従業員の森田(旧姓・関)昭氏(同61)と元塗装工の川村富士美氏(当時37~38)は1998年の夏頃から1999年5月下旬まで連日、八木死刑囚の愛人女性から大量の風邪薬や酒を飲まされ、森田氏は風邪薬の副作用で死亡、川村氏は急性肝障害などの傷害を負ったとされている。

 この疑惑に関しても、当時は八木死刑囚をクロだと印象づける報道ばかりだった。

 たとえば、産経新聞(同)は2000年3月24日夕刊1面で、川村氏が八木死刑囚の経営するスナックの女性店員にもらった弁当を食べて手足にしびれを訴え、薬物中毒で入院し、一時意識不明に陥っていたと報道。さらに同紙は3月27日朝刊30面で、八木死刑囚が営む金融会社の元社員(当時49)が八木死刑囚から3,000万円の報酬などを条件に森田氏の殺害を依頼され、断ったことがあり、「自分も危ない」と語っているという凄まじい話を記事にしていた。

 しかし、裁判資料で確認したところ、こうした報道も「虚構」だったことがわかった。

 たとえば、裁判資料では、川村氏が弁当を食べて手足がしびれた云々の話はまったく見当たらない。川村氏が「ある薬物」の中毒者だったことや、入院したことがあったのは事実だが、入院は変な弁当を食べたせいではなく、また、入院時の意識もはっきりしていたのである。

 一方、殺害依頼云々の話については、当時そういう「ネタ」を警察のみならず、あらゆるマスコミに吹聴していた男性が存在するのは事実だ。しかし、この男性は八木死刑囚の裁判に証人として出廷していない。検察がこの男性の証言を信頼していたならば、通常ありえないことだ。

 なお、この男性の名は建脇保氏というのだが、実は裁判で何かと問題のある人物だったことが明らかになっている。また、「被害者」という立場にある森田氏、川村氏の2人も裁判で明らかになった事実を見ると、実は清廉潔白な人物だとは言い切れない。

 この3人の素性については、後編(26日12時配信)で改めて紹介する。


■トリカブトの成分は検出されたが…

 捜査段階の報道を検証してみると、「虚構」ではないものの、世間をミスリードするような報道も散見された。

 たとえば、当時、前出の佐藤氏の臓器からトリカブトの成分が検出されたという捜査情報がセンセーショナルに報道されていた。この情報は事実だが、トリカブトは毒草として有名な一方で、ブシやホウブシなどの名で医薬品の成分にもなっているものだ。臓器からトリカブトの成分が検出されたこと自体に大きな意味はない。

 一方で、あまり報道されていないが、裁判資料によると、佐藤氏は多額の借金を抱えていたうえ、実は「胃ガン」に冒されていた。報道で「八木死刑囚=クロ」という心証を固めた人は、にわかに受け入れがたいかもしれないが、「溺死」という死因鑑定の結果や遺書の存在のみならず、あらゆる客観的証拠が佐藤氏の死の真相は「自殺」だったと示しているのである。

 もっとも、八木死刑囚には、このうえなく怪しい事実があるのもたしかだ。これも散々報じられたことだが、3人の被害者は全員、八木死刑囚に対する債務を抱えており、八木死刑囚の愛人女性と「結婚」させられていたうえ、多額の保険をかけられていた。しかも、佐藤氏が亡くなった際には、佐藤氏と「結婚」していた八木死刑囚の愛人女性に約3億円の保険金が支払われている。こうした事実だけで「クロ」を確信する人は決して少なくないはずだ。

 ただ、こうした限りなく怪しい事実に関しても、実は報道だけではわからない事情が色々あるのだ。(つづく/26日12時配信)

(取材・文・写真=片岡健)

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ノンフィクションライター。全国各地で新旧様々な事件を取材している。著書に『平成監獄面会記』(サクラBooks)、編著に『桶川ストーカー殺人事件 実行犯の告白』(KATAOKA)など。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会記」』(カルトコミックス、作・塚原洋一)が8月8日に発売。
Twitter:@ken_kataoka

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