「犯罪者の脳を手術すべき」vs「犯罪者と我々の脳は同じ」
■法学者「犯罪者と我々の脳は同じ」
このイストバン氏の論説に真っ向から異を唱えているのが、メリーランド大学法科大学院のアマンダ・プスティルニク教授だ。「思わせぶりで興味を惹く理論ですが、多くの間違いを抱えています」とプスティルニク教授は「Popular Science」の取材に応えている。
まず最初にイストバン氏が誤解しているのは死刑の存在理由についてであるという。社会が絶対に許すことのできない罪についての究極の懲罰が死刑なのであって、脳にインプラントして感情をコントロールできたところでその犯罪者を許すことはできないということだ。
また、感情をコントロールするインプラント機器がすでにあると仮定しても、現在の法律ではそれを犯罪者に施すのは難しいという。一種の司法取引のようなものになってしまうため、犯罪者の自由意志による承諾とは認められず、加えてこのような機器を埋め込む外科手術は合衆国憲法修正第1条、及び4条と5条に抵触するということだ。
そして決定的な誤謬であるのが、イストバン氏の“犯罪者観”であるという。「犯罪者は神経学的に我々と違うわけではないのです。……彼らは我々なのです」とプスティルニク教授は語る。
犯罪者の百万人に1人、暴力的な人格障害による病的な犯罪者がいたとしても、ほとんどの犯罪者は我々と同じ脳と神経細胞を持った普通の人間であり、感情をコントロールする必要などないということだ。
「(イストバン氏の理論のような)神経科学周辺の魅力的な提言は私も大好きです。しかし時にこれらは、現在であれ未来であれ、我々がもっと効果的に取り組める簡単かつ低コストで効果的な手法を見えなくします」(アマンダ・プスティルニク教授)
犯罪史上には情状酌量の余地がまったくなさそうな冷酷非道な凶悪犯も存在し、また刑期を終えて社会復帰しても再び同じような犯行を繰り返す者も少なからずいる。そのような犯罪者の脳を“治療”することには確かにもっともな理由がありそうな気はしてくる。しかしそれを行なうことで、犯した罪の重さを自覚させる機会を失わせることになると言えなくもない。何かと注目を浴びるトランスヒューマニズムだが、やはり倫理問題や社会道徳問題の前ではその推進・普及は一筋縄ではいかないようだ。
(文=仲田しんじ)
参考:「Motherboard」、「Popular Science」ほか
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