文章力もセンスもある…が、元少年Aが“サブカル不快感野郎”である紛れもない理由

文章力もセンスもある…が、元少年Aがサブカル不快感野郎である紛れもない理由の画像1※イメージ画像:『絶歌』(太田出版)

 元少年Aの手記『絶歌』(太田出版)を読んだ。本書は二部構成となっている。一部は、生い立ちから、事件を起こし、逮捕取り調べを受け、医療少年院への入院処分が決定するまでが記されている。二部は、医療少年院の仮退院から、社会復帰、手記執筆へ至る経緯が記されている。医療少年院の内部に関する言及は第二部で、遺族の手記を読み悶え苦しんだことなどが、わずかに言及されるのみだ。

 本書には音楽、小説、漫画などサブカルチャーの固有名詞が散りばめられており、ざっと挙げるだけでも松任谷由実、松本人志、三島由紀夫、村上春樹、大藪春彦、古谷実、ドストエフスキーなどについて言及されている。さらに、事件を起こした当時、ハマっていたという猟奇殺人についての興味も隠さない。

“僕は野球選手の名前も、テレビタレントの名前もほとんど知らなかった。当時の僕にとってのスターは、ジェフリー・ダーマー、テッド・バンディ、アンドレイ・チカティロ、エドモンド・エミル・ケンパー、ジョン・ウェイン・ゲイシー……。世界にその名を轟かせる連続猟奇殺人犯たちだった。”(『絶歌』p.22)

 元少年Aは友人の家にそろう『週刊マーダーケースブック』(デアゴスティーニ)や、本屋に並ぶ異常犯罪心理関係の本を読みふけっていた。『週刊マーダーケースブック』は、毎週ひとりずつ殺人鬼を取り上げたムック本だ。事件発生時に、元少年Aの愛読書として挙げられ、内容が問題視された。また元少年Aは、ホラービデオの愛好者であるとも報じられ、猟奇犯罪本やホラービデオなどの、サブカルチャーアイテムに事件の原因が求められ、批判のやり玉にあげられることもあった。

 元少年Aは私の一学年下である。私は早生まれなので、出生年は同じ1982年、昭和57年だ。私は高校卒業までを関東地方のとある地方都市で過ごした。元少年Aが逮捕された、1997年6月28日は土曜だった。逮捕を報じるテレビには、お祭り気分ではしゃぐ少年たちの姿が映った。その夜、いつも聴いていたラジオ番組でドリアン助川が、激しい怒りをあらわにしていたのを覚えている。

 『絶歌』には触れられていないが、鬼畜系のムック本として知られる『危ない1号』(データハウス)を作っていた編集者の吉永嘉明の著作『自殺されちゃった僕』(飛鳥新社)には興味深い記述がある。

“テレビを見ていて、神戸で少年の頭を校門の上に置いた例の酒鬼薔薇聖斗が友人にあてた年賀状が映しだされたことがあった。そこには『危ない1号』第1巻のイラストの模写が描かれていた。僕が愛読者葉書をチェックしていったら、酒鬼薔薇聖斗の本名で葉書が来ていた。僕らがシャレと商売で編集している本を、覚醒剤中毒者や酒鬼薔薇聖斗が目を輝かせて読んでいた。そう考えると、とても責任が持てないという気持ちになったーー。”『自殺されちゃった僕』(飛鳥新社)(p.22-23)

『自殺されちゃった僕』は、のちに幻冬舎アウトロー文庫に収録される。なぜだか、文庫版の描写では、元少年Aから葉書が来ていたという一文は削除されている。

 こうして見ると、学校で目立たず、友人も少ない少年が、猟奇的なサブカルチャー趣味に耽溺し、果ては人まで殺してしまったという単純な見立てが生まれる。今の言葉を使えば“サブカルクソ野郎”ともなるだろうか。だが、元少年Aの精神病理には、性的倒錯が大きく関与していることは本書でも述べられている。サブカルチャーのみに原因を求めるのは強引だろう。

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