P112-113 長江デルタ/中国
【肥沃な長江三角州に広がる農村モザイク】
中国東部に位置する長江デルタは、江蘇省、浙江省、上海市へとまたがる中国最大のデルタ地帯。もとは中国大陸の命脈たる長江が海へと流れだす湿地帯であり、古くから米作を主とした農業の中心地として栄えた。人工衛星が捉えたこの画像は、江蘇省南通市郊外にある田園地帯。まるでコンピューター黎明期の8bit画像、あるいはテクノに呼応するイコライザーのごとく、リズミカルに田園と家々が並んでいる。近年の調査によると、長江デルタ地帯には日本の人口と同じ1億4000万人程度が暮らすと言われ、ここで生み出されるGDP(国内総生産)は実に中国全体の10%を占めるという。その牧歌的な眺めとは裏腹に、中国きっての産業発展地域なのである。
――最も気に入っている写真を数点、理由とともに教えてください。
佐藤氏:やはり表紙にもなっているパキスタンのグワーダルや、中国のデルタ地帯などですね。地上から見たらそれほど面白くはない景色が、宇宙から見ることによって全く違った景色として現れるところが、面白いと思います。 アリと象では世界の見え方が全く違うように、人間が考える「風景」や「絶景」という概念は、実はとても固定観念的なもので、人間の視野角や身長、体の大きさなど、あくまで“人間の身体的基準”から定義されています。 それを人工衛星という超越的な装置から見ることで、我々が考えてきた「風景」という概念が、暴力的にリセットされるような感覚…。人間がアリの住居を観察すると不思議に思うように、我々が普段何も思わない町の景色も、実はより高度の世界から見れば、それ自体とても「奇妙」であることに気づきます。僕自身が『奇界遺産』でテーマとしている「正常」と「異常」の境界を破壊するような圧倒的な力が衛星画像にはあると思います。