消えた大阪の海底住居・ガラテの謎 ― 20世紀の人類が思い描いた“幻の近未来”を訪ねて

 そんな人類にとって未知なる領域への夢と希望を抱かせたこの「ガラテ」が、遠く海を渡って日本へと辿り着いたのは、1981年のこと。この年、日本では神戸ポートアイランド博覧会(ポートピア’81)が開催されており、その目玉として、この「ガラテ」は展示されることとなったのである。そのため、博覧会の開催期間は、「ガラテ」を一目見ようと、全国の人々が会場へと殺到し、その独特な近未来感に胸をときめかせた。

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 また、その威風堂々とした姿の前で、当時、数多の国民を熱狂させていた人気バンド・ゴダイゴが、同博覧会のテーマソングでもある『ポートピア』を生演奏するという、実に豪華な「夢の共演」も実現するというひと幕もあった。

 なお、まったくの余談ではあるが、1985年に発売され、ヒットしたエニックスのファミリーコンピューター用ソフト『ポートピア連続殺人事件』のタイトルは、この博覧会に由来している。さらに、作中には、この博覧会の遊戯施設としてオープンした『神戸ポートピアランド』の象徴である大観覧車も登場した。しかし、その後、同園は不況の煽りを受けて2006年にひっそりと閉園している。

 一方、テーマソングを歌ったゴダイゴは、今なお、世界各地で公演を行うなど、21世紀に入ってからも、息の長い活動を続けている。メンバーの中でもどこかその面影が「ガラテ」と似ていると言われていた同バンドのリーダー・ミッキー吉野氏は、今月、『ミッキー吉野の人生(たび)の友だち』(シンコーミュージック)を上梓するなど、メインボーカルであるタケカワユキヒデ氏と並び、とりわけ精力的に活動を展開している。かつてそのステージに熱狂したファンたちが思い描いた近未来への夢と希望を、彼は今も変わらぬことなく背負い続け、その銀河への長旅を続けているようだ。

 さて、少々話が逸れてしまったが、その後、博覧会の閉会と共に大阪市へと寄贈されたこの「ガラテ」は、同年に開通した新交通システム・ニュートラム(大阪市交通局南港ポートタウン線)のフェリーターミナル駅前に設けられたガラテ広場に展示されることが決定。その輝かしい未来への「希望の象徴」として多くの市民から愛されていた。

 しかし、その後、かつて多くの国民が抱いていた「近未来」が、実際に到来した90年代に入ると、人知れず撤去され、以後、大阪南港魚つり園の敷地の片隅に、雨ざらしの状態で事実上の「放置」に近い静態保存状態になるという、なんとも寂しい運命を辿る。

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 さらにそこから約四半世紀にわたって、ただ朽ちるだけの状態が続いていたが、ついに2014年3月23日、同公園からも撤去。台座とプレートを残し、どこかへと持ち去られてしまった。公式な説明はなされていないため、詳細は不明だが、おそらく老朽化に伴い、廃棄処分となってしまったと見るべきであろう。

 20世紀に生きた人々にとって、まだ見ぬ21世紀の世界には、多くの夢が詰まっていた。海底や宇宙で人々が暮らせるようになり、車や鉄道は宙を駆け巡り、優秀なロボットたちの活躍により、日々の暮らしは飛躍的に便利になる。かつて、博覧会で「ガラテ」を見た人々の多くも、それが海の中に点在する光景を、おそらく夢みたことだろう。もしかすると、そんな楽しく、一点の曇りすらない、彼らの心の中に存在していた憧れに満ちた近未来とは別の未来に、現在の我々は立っているのかもしれない。
(写真・文=Ian McEntire)

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