タテをヨコに変えただけで世界はこうも変わるのか!! 現代美術家・毛利悠子の展示が興味深い!
圧倒的な物質性を誇示する三本の街路灯が展示された同じ空間には、馬鹿らしいほど安っぽいミニチュアの街路灯やミニカーなどが並べられている。巨大なものと極小のもの、本物と模造品、両者が分け隔てなく並列されること自体に違和感を覚えるが、それだけではない。三本の街路灯はこれらキッチュなアイテム群と銅線でつながれ、かつ、同一の電源に依存しているのだ。しかも、電流経路に積み重ねた空き缶が差し挟まれている関係で、本物の街路灯はもちろんのこと、オモチャの街路灯も、ランダムに点いたり消えたりしている。つまり、現実社会での役割を終えた三本の街路灯は、この極めて不安定な都市システムの一部に組み込まれているのだ。
実に捉えどころのない作品である。概念的に何かをつかもうとすると、とたんにスルリと逃げられてしまう。それほどに、重厚さと軽薄さ、高尚さと俗悪さが混然一体となっている。だが、少し立ち止まってみれば直ちに思い返すことができるように、こうした両義性を内包する、つかみどころのなさこそが都市の本質なのだ。
周知のとおり、とりわけ9・11以降、世界は都市空間から不確実性や多様性を排除する方向に動き続けている。しかし、いかに優れたアーキテクチャーといえども、ランダムネスを完璧に制御することなどできないし、また仮にできたところで、そんな環境で人が人らしく生きていけるかどうか甚だ怪しい。
それならば、そういう不確実さを所与のものとして受け入れ、泣いたり笑ったりしている方がマシである。多くの文学や美術もそういう乱雑な場所から生まれて来たのだ。すると、こう了解できる。《アーバン・マイニング:多島海》とは、作者がどこかで掘り出してきたものを親切に見せる場などではなく、むしろ私たち自身がそこから何をマイニング(抽出)できるかが問われている場なのだと。
さて、この度はスパイラル開館30周年を記念して行われた「スペクトラム」展で目を見張るようなインスタレーションを展開した毛利悠子だが、11月には横浜で「日産アートアワード2015」(会場:BankART Studio NYK)に出展予定である。こちらの方も大いに楽しみにしたい。
(取材・文=斎藤 誠)
■日産アートアワード2015
2015年11月14日(土)~12月27日(日)
開館時間 11:00-19:00 無休
料金 入場無料
会場:BankART Studio NYK
〒231-0002 横浜市中区海岸通3-9
http://www.nissan-global.com/JP/CITIZENSHIP/NAA/
■「スペクトラム」展
参加作家:栗林隆、榊原澄人、高橋匡太、毛利悠子
会場:スパイラルガーデン 東京都港区南青山5-6-23
会期:2015年9月26日~10月18日(終了)
HP: http://www.spiral.co.jp/e_schedule/detail_1590.html
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