シャマラン監督、復活か? 低予算で挑んだ新作映画『ヴィジット』にやっぱりダマされた!
驚愕のストーリー展開と予想のつかない結末で、観る者の心を虜にする稀代のストーリーテラー、M・ナイト・シャマラン監督。とはいえ近年の作品は興行的にも評価的にも大コケの連続。枯れた天才のイメージが定着しつつあった。しかし、そんなシャマランが原点回帰して挑む“史上最高の「謎」と「恐怖」”は想像以上に見応えのある作品だったといえるだろう。
舞台となるのは人里離れたおばあちゃんの家。どこか懐かしく温もりすら感じるようなこの場所に、両親の離婚にショックを受けた姉弟が1週間の余暇を過ごすために訪れる。アマチュア映像作りにはまっている姉・ベッカ(オリビア・デヨング)とラッパーを目指す弟・タイラー(エド・オクセンボールド)の手にはハンディカメラが1台ずつ。母親(キャスリン・ハーン)は若い頃に実家を飛び出し、それっきり祖父母(ピーター・マクロビー/ディアナ・デュナガン)と疎遠になっているため、姉弟は祖父母との感動の対面を果たすところと楽しいふれあいをカメラに収めようと計画する。
美味しい料理をたくさん作ってくれるおばあちゃん、口数は少ないが優しい目で見守るおじいちゃん。祖父母と孫の幸せな時間を切り取った映像はホームビデオそのもの。しかしやがて、この家に隠された秘密が見え隠れする。地面を這いずり回るおばあちゃん。銃をくわえるおじいちゃん。使われることのない井戸。何かがおかしい…。疑念はやがて大きな恐怖となって姉弟の心を覆っていく…。
本作はシャマラン監督の熱望により、“モキュメンタリー”として製作。これは虚構の出来事を実際に体験しているかのように、ハンディカメラで映像を収めながら実況やインタビューをし、ドキュメンタリータッチに仕上げる表現手法。モキュメンタリーの代表格である『パラノーマル・アクティビティ』(2007)をはじめとした大ヒットホラー映画のプロデューサー、ジェイソン・ブラムが本作製作に名を連ねており、それだけでも計り知れない恐怖に期待が持てる。
劇中、姉弟がのぞくカメラの向こう側がスクリーンに映し出されることで、観客はあたかも同じ空間を共有しているかのように錯覚する。さらにBGMを排除することで、突如ドアを叩きつける音、泣き叫ぶ声、すべてがクリアに響きリアリティ感が増す。姉弟が体験する恐怖はそのまま観客に連鎖するのだ。そして極め付きは、おばあちゃんの奇怪な姿。ジャパニーズホラーの代名詞ともいえる貞子さながらに地面を這い、包丁を振りかざし、壁を見つめて笑ったかと思えば、ベッカを巨大なオーブンの中に入れる。もはや、その先に“死”を想像せずにはいられない。
一方、おばあちゃんがたるんだお尻をさらし、真っ裸で壁を無心に引っかくさまや、スカートが捲れて半ケツで歩く姿には失笑してしまう。シャマラン監督の原点であるスリラー映画に回帰し、知名度の低い主要キャスト5人で作り上げた低予算映画は、ともするとB級感すら漂ってくる。しかし、祖父母の奇行も家を取り巻く不気味な謎も、シャマラン監督史上最高傑作と謳われる『シックス・センス』(1999)をも凌ぐラストの大どんでん返しに向けて張り巡らされた伏線のひとつと気づかされた時、息をのみ、言葉を失い、類まれなるその才能に敬服せざるを得ない。そして、これからシャマランワールドをヴィジット(訪ねる)する人に言いたくてたまらなくなるのだ。そう、「あなたはすでにダマされている」と。
(文=鶴見菜美子)
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