生まれてすぐに袋詰めにされて殺される子犬たち、劣悪な“ガス室待ち”の環境…犬の殺処分問題について山田あかね監督が語る

■少しでも早く殺処分を減らすために。「保護犬」を知ろう

生まれてすぐに袋詰めにされて殺される子犬たち、劣悪なガス室待ちの環境…犬の殺処分問題について山田あかね監督が語るの画像4(c)スモールホープベイプロダクション

――では我々は、具体的にはどうすればいいのでしょうか?

山田 犬を飼う“気持ち”ですよね。どれだけ犬を尊重できているかです。安易に命を売買できるペットショップは問題だとは思います。儲けだけを考えるブリーダーもあってはならないと思います。ブリーダーというのは、素晴らしい犬種がいて、その犬種に敬意をもって本気で愛している人がやっていくならいいことだと思うんです。つまり、単なる金儲けの道具ではなく、犬に対しての敬意さえあれば、こんなに悲惨なことにはならないはずなんです。また、もっとたくさんの人に「保護犬」という存在を知ってほしいですね。保護団体やセンターには、新しい飼い主を待つ「保護犬」がたくさんいます。


――飼い主1人ひとりが現状を知ることで、変わる世の中があるかもしれないですね。

山田 取材をはじめて4年間のうちに殺処分の数は減って「保護犬」という言葉も広がりました。昭和41年なんて年間120万匹を殺していたんですよ。それを考えると10分の1になりました。そして、2000年代にはいって、さらに数が減ってきている。世の中が変化する速度がとても速くなっていることを実感しますし、この世の中捨てたもんじゃないっていうのはあります。

 これだけ現状が変化したのは、保護団体のひとたちが、1匹ずつ、せっせと無償でセンターから犬を救って新しい飼い主をさがしてきたからです。その動きが結果的には行政を動かして、一般の人の関心も引くことができた。

 だから、私は悲惨なものをみようと思って取材をはじめたのに、結果的には希望をみることができたんです。人が社会を変えられるということを本当に実感しました。

 保護団体の彼らの活動を見たセンターの人たちも「果たして自分たちはこれでいいのかな?」と疑問をもつようになった。以前は、殺処分されるのだからと、仕事以上のことはしなかった。仲の悪い犬同士を同じ部屋に入れて、けんかをして、死にかけたりしても無視していたのが、せめて別々の部屋に入れてやろうか? と考えるようになったり、掃除だけしてやろうかってなったり、空気が変わったんです。たとえ法律が変わらなくても、懸命に活動する人々の姿を見れば人の意識はかわるんです。こうして、犬の殺処分を取り巻く環境が日に日に変化していって、それが全国的なうねりになったのは素晴らしいことだと思います。


――「殺処分ゼロ」になる日も近いのでしょうか?

山田 もちろん、殺処分ゼロを目指すことはいいことです。ですが、ゼロを目指しすぎて弊害が起きることもある。たとえば、センターに犬を持って行っても断られたり。前だったら、殺処分していたのに「もう一回飼ってください」って言われたりするわけです。そうすると何が起きるかというと、悪質な業者に頼んで殺してもらったり、野山に捨てたり、海に沈めるなど、より悲惨な状況が生まれる可能性が出てくるんです。山奥にたくさん犬が捨てられていた事件もあったでしょう? センターにいたら、もしかしたら新しい飼い主が見つかるかもしれないのに、そのチャンスすらなくなってしまう。だから、ゼロを目指しすぎる弊害にも気をつけなければならないのです。


――どのような人に映画をみてほしいでしょうか?

山田 犬好き・動物好きはもちろんですが、犬の問題だけじゃなく、いろいろ悩みをもっている人に見てもらいたいです。どんな問題でも、動き出せば変化するという前向きなメッセージが詰まった映画なので。めげそうな人にこの映画を見て、元気を出してもらいたいですね。

『犬に名前をつける日』
監督・脚本:山田あかね
出演:小林聡美、ちばわん、犬猫みなしご救援隊、上川隆也、渋谷昶子、ハル、ナツ、チコ(ノワール)ほか
主題歌:ウルフルズ『泣けてくる』
音楽:つじあやの
配給:スールキートス
2015年/107分

・10月31日(土)からシネスイッチ銀座ほかで全国ロードショー
・公式ウェブサイト http://www.inu-namae.com/

山田あかね(やまだ・あかね) 東京都生まれ。早稲田大学卒業後、テレビ制作会社勤務を経て、1990年よりフリーのテレビディレクター。ドキュメンタリー、教養番組、ドラマなどの演出・脚本を手がける。小説家としても活躍し、03年『ベイビーシャワー』で第4回小学館文庫小説賞受賞。愛犬「ハル」は、この秋公開の新作映画『犬に名前をつける日』に出演している。

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