早稲田大学よ、“悪質”コピペ准教授をなぜ庇う?「論文盗用疑惑」めぐる泥沼審議

「勧告に反対する一部の先生から『前回(14年に懲戒解任された蛭田准教授)と違って、盗用元論文と最終発表論文が比較提示されておらず、著作権侵害の程度も分からない。処分の程度が判断できない』『非公開の修士論文を盗用したのは守秘義務違反も含まれ、前回よりも悪質』『査問委員会報告書内の准教授の陳述は矛盾があり、ウソをついている可能性がある』『過失と言っているが、4回も過失が重なるのは故意と考えるべき』とか。中には准教授の教育面での資質を疑問視する意見も出されて、それを商学学術院執行部の教授が遮る場面もありました」

 これに対して嶋村教授からは「前回のケースは本人が盗用を認めていないので判断材料として論文の比較を提示した。今回は本人が認めているのでその必要はない」「守秘義務違反というが、未発表のモノも含め学生が共著論文執筆は同意しており、この点で守秘義務は無くなっている」などと説明された。

 だが、一番会場がざわついたのは査問委員会の勧告に対して不同意が多数となった場合は准教授を処分しないと発言したことだった。前述の出席者は次のように語った。

一瞬、驚きましたよ。しかも、ある先生が『処分に不同意は、処分が重すぎるという見解と軽すぎるという見解が混じってしまうが』と質問したら、嶋村教授は『それは区別できない』と言ったのですから

 処分が軽すぎるので再査問すべきという意見も出されたが、商学学術院執行部のメンバーからは「教員の表彰および懲戒に関する規程では、本人の異議申し立てがあった時の再査問は明文化されているが、処分勧告の是非を判断する再査問は規程に明文化されていない。ない以上、やってはいけないこと」と言い渡された。

 この辺の根拠は前述の明文化されていない再調査委員会とそのオブザーバーの設置とは矛盾する。

 こうした対応に反発して議決直前に必要な定足数を割るためにわざわざ退席をした教官も現れた。ちなみに議決直前に執行部側が発表した出席者数は80人。

 一部の教官が退席するなか、事務方が会議に出席していなかった教官たちを慌てて電話で呼び出すという泥縄な対応まで取られた。この結果、最終的に投票数83票に対し、賛成60票、反対13票、白票その他10票で、議決に必要な出席者の3分の2以上を辛うじて満たす形で勧告は議決された。

 もっともこうした経緯に「議決は成立したとは言えないのでは」という意見もある。
 
 そもそもこうした見解の違いが生じるのは、最初に事実認定を行っている学術倫理委員会の調査委員会報告書が審議をする教授陣に公開されていないことも一因だ。

 総長周辺のある関係者によると、報告書の事実認定では極めて重要な記述があったと証言する。

早稲田大学よ、悪質コピペ准教授をなぜ庇う?「論文盗用疑惑」めぐる泥沼審議 の画像2A氏と准教授の共著で発表された「早稲田国際経営」の論文

 それは前回示したA氏の修士論文とA氏と准教授の共著論文、それらを盗用した疑いのある准教授単著の14年の日本経営学会誌論文との比較だという。

 従来からA氏に限らず、准教授は単著論文の執筆時は、学生との共著論文およびその原稿は参照したが修士論文は参照していないと主張している。

 ところがこの関係者は「この比較では共著論文にはなく、修士論文にしかない記述と酷似した記述が、准教授の単著論文にあった。だから学術研究倫理員会は修士論文を参照していないという准教授の発言の信ぴょう性を疑い、このことが『意図的盗用』との判断材料のひとつになっている」と語る。

 また、この関係者によると、盗用を疑われている准教授の単著論文では、修士論文や共著論文およびその原稿から学生が作成された図がそのまま掲載されているという。ところがこれらの図には修士論文や共著論文およびその原稿には記載がなかった「筆者作成」という注記がわざわざ付け加えられているという。実際、公開されているA氏との共著論文とこれを盗用した疑いがあるとされている准教授の日本経営学会誌の単著論文では、確かにこの違いが見て取れる。

早稲田大学よ、悪質コピペ准教授をなぜ庇う?「論文盗用疑惑」めぐる泥沼審議 の画像3画像は、学生A氏の論文を盗用した疑いがある日本経営学会誌発表の准教授の論文。わざわざ筆者作成の注記がある

 
 推論になるが過失で何かを削除したならまだしも、わざわざ加筆をご丁寧に数多くの図表でやるというのは、腑に落ちない。

 しかも、准教授の処罰を決めるという極めて重要な議決に当たって、これらの事実は必ずしも教授陣には公開されていないという摩訶不思議な現実が存在する。

 ちなみにこうしたケースではどこまで准教授が学生の修士論文作成にアイデアなどを提供していたかなどに注目する向きもある。

 しかし、関係者の話を総合すると、この点に関しては学術研究倫理委員会から査問委員会までの報告書では、一貫して論文の構想や調査の実施、データの収集・解析は学生が主体となって行っており、准教授の指導はいわばサポート的な一般的な指導の範囲にとどまると認定している。

 百歩譲って准教授のアイデアなどに100%依拠していたとするならば、そもそもそのような修士論文をもとに学位を与えることの方が間違いである。


 筆者は現在自宅待機中の准教授を尋ねた。

筆者:「査問委員会の勧告は停職4カ月だが、それについて異議申し立てをするつもりは?」

准教授:「それについてはお答えしようが……」

筆者:「異議申し立てはしていないのか?」

准教授:「まあ……(うなずく)」

筆者:「学生の修士論文は参照していないと聞いているが、A氏の修士論文と酷似し、共著論文にはない表現が単著論文にあると聞いているが」

准教授:「お答えして良いのかどうか。ただ学術研究倫理委員会の調査報告書は私から見れば不正確」

筆者:「著作権侵害は認める?」

准教授:「ええ。不注意で学生に許諾は取らなかったのは事実」

筆者:「懲戒解任相当と言う意見が学内にはある」

准教授:「こちらは処分を受ける立場なので何も言えない」


■懲戒解雇された元准教授、あまりに不公平な処分差に怒り

 さてここでもう1つ問題となるのが、准教授への停職4カ月という処分見通しと昨年の同じ商学学術院の蛭田啓元准教授に対する懲戒解任との違いである。

 蛭田元准教授の場合は、今からさかのぼること10年以上前の01年と03年の早稲田大学学内の紀要「早稲田商学」の2本の論文での盗用、一方の今回の准教授は過去2年以内の「日本経営学会誌」2本と早稲田大学の学内紀要「早稲田国際経営研究」の2本の計4本。

 しかも、蛭田元准教授の場合は発覚から7カ月間で調査委員会→査問委員会→懲戒解任、今回の准教授のケースは発覚から1年4カ月を経た今なお処分は未確定で調査委員会は2度、そして停職4カ月の見通しだ。

 早稲田大学広報室にこの点を尋ねたが、「現時点で処分が最終確定していないので、申し訳ないがお答えを差し控えさせていただいている」とのことだった。

 ちなみに学内ではこの違いを「本人が不正を認めなかったケース(蛭田元准教授)と本人が認めているケース(今回の准教授)」と説明されているという。

 ある学内関係者は「要は2年連続懲戒解任者を出したくないというのが商学学術院執行部の本音では? でも執行部も情けないですよね」と批判する。

 現在、蛭田元准教授に関しては、処分取り消しを求めて東京地裁に提訴中である。その代理人を務める石井逸郎弁護士は憤慨しながら次のように語る。

早稲田大学側の対応は極めて不公平。蛭田元准教授の紀要のケースは、オリジナリティーのあるアイデアを盗用したのではなく、引用の仕方に是非があるとはいえ、あくまである程度一般的な学説を紹介したに過ぎない。しかも、今回のケースとほぼ同時期に指摘がありながら、こちらは7カ月で問答無用。今回の准教授は1年4カ月にも及んでまだ処分の決定にすら至っていない。このような停職議決を最終決定するというなら、早稲田大学は蛭田元准教授を復職させるべき

 いずれにせよ今回の経過には様々な面から不透明さが目に付く。そして今回の准教授についてはこの件だけでなく、ほかにもさまざまな指摘がある。次回はこうした点などについて触れておく。

<第3回に続く/明日配信予定>
(取材・文=村上和巳)

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