年間1000人が斬首され、その骸が出土した“死臭がした場所”=小塚原刑場

年間1000人が斬首され、その骸が出土した死臭がした場所=小塚原刑場の画像1

 1958年にラジオ東京テレビが制作したテレビドラマ『私は貝になりたい』で、フランキー堺演じる主人公の清水豊松は、戦時中に一兵卒として従軍したことをキッカケに、そのエンディングで絞首刑になる悲劇的な最期を迎えた。

 だが現在においてもポピュラーなスタイルとなっているこうした絞首刑は、こと日本に限って言うと歴史的に見ればそれほどたくさんは行われていない。たとえば江戸期においても、絞首刑は庶民用に用意されていた六つの刑罰のうちのひとつに過ぎなかった。当時、その刑に処された数で言えば、やはり斬首刑の方が目立っており、その多くは、江戸市中に点在していた3つの大刑場で行われていたのである。

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 東京都荒川区南千住四丁目に位置するJR常磐線と東京メトロ日比谷線の南千住駅は、現在、1日平均27,571人もの客が乗降する(※平成26年度のデータによる)、割と大きな駅である。この駅が誕生した1896(明治29)年より前の時代、この場所には多くの罪人が最期の時を迎える、血なまぐさい刑場が存在していた。

 江戸期の1651(慶安4)年、三大将軍・徳川家光が死去した年に完成した小塚原刑場が、その惨劇の舞台である。

 その往時、大和田、鈴ヶ森と並び、江戸の三大刑場としてその名を轟かせたこの小塚原は、間口60間(約108m)、奥行30間(約54m)あまりの当時としては大規模なものだった。その「収容面積」ゆえか、この後、幕府が滅びるまでの約220年の間に、夥しい量の罪人の骸が、その処刑後、敷地の至るところに無造作に埋められ続けてきた。

 その数たるや年間1,000体。今のように周囲に宅地がなかった当時は、あたりには絶えず死臭が漂い、夜になると死肉の臭いに誘われたイタチなどの野生動物の多くが、墓暴きにやってくるという、生き地獄さながらの光景が広がっていたとされる。そもそも、ただでさえ首を刎ねられたり、鋸挽きなどにされたりした死体である。挙げ句、死んだ後もろくな埋葬もされず、獣にその肉を啄ばまれたとあっては、いくら罪人であってもあまりにご無体な話だ。

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 そんなあまりに酷い有様を見るに見かねたのか、1667(寛文7)年、その霊を弔う常行堂(現在の南千住回向院)が建立されている。その後、1872年5月、横浜の実業家である高島嘉右衛門によって興された日本初の私鉄・日本鉄道の土浦線(現・常磐線)の開業に際し、あろうことか、同院は線路を隔てて南北に分断。はからずも南側は延命寺という別の寺社として独立することとなった。

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 無論、その施設工事にあたっては、江戸期の遺骨が大量に出土し、当時の写真は滝川政次郎著の『日本行刑史』などでも見ることができる。こうした背景を鑑みれば、かつてこの界隈が『雲助(くもすけ)も避けて通れぬ小塚原』という川柳からもわかるように、古くから多くの車夫や駕籠担ぎたちに避けられ、昭和期に入ってからも「タクシーが拾いにくい場所」として知られていた時期があるというのも、どこか頷ける。当時の彼らが恐れ慄いた噂話が如何なるものであったから、推して知るべしといったところだ。

 日本怪人墓列伝で触れた「明治の毒婦」高橋お伝の墓がある北側の回向院から、線路で分かたれる形で独立することとなった南側の延命寺には、当地にさまよう罪人たちの霊を弔う形で、首切地蔵が祀られている。

 その傍らには、おなじみの一文が記されたピースポールが寄り添うように立てられており、その形は意外と珍しい六角形状のものだ。無論、このピースポールと地蔵は、これといった関係はなく、白光真宏会の活動によって後年建立されたものだと推測される。

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 また、この延命寺が面する通りには「コツ通り」という通称がつけられているが、それがこの付近から出土した「骨」にちなむものなのか、小塚原の「コツ」なのかは判然としない。その名を記した案内板に目をやる人もなく、むしろ今の時代においては、昭和の少年たちに多くの夢を与えた画家・小松崎茂氏の個展開催を告げるフライヤーが掲示されていることの方が、多くの人々にとっては気になるところなのだろう。

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 最後に、まったくの余談ではあるが、今回の探索中、寺院のすぐ傍らにある常磐線の橋脚部分にあたる場所に、なぜか梵字のような奇妙な文字状の落書きが記されているのを発見できた。我々日本人の感覚から言えば、音符のような形状を持っている外国語、たとえばユダヤ人が使うヘブライ語などでは比較的近い文字も確認できるが、その正確な意味がわからぬ以上、もしかすると書き手にしかその意味がわからぬヴォイニッチ手稿のような発見である可能性も否定できない。念のため、そのことを付記しておく。
(写真/文=Ian McEntire)

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