【奇景】入水自殺者の足取りを辿るかのよう? 丘から海へと立ち並ぶ海中電柱群(千葉県)
東京と千葉を結ぶアクアラインから、房総半島側の海岸線に目をやると、かつてはその空の下に、陸から沖の方へ向かって、まるで行列を成す人影のように立ち並ぶ無数の電柱を見ることができた。まるで入水自殺を試みる人の足取りを連続で辿ったように続くその細い影は、なんとも言えぬ奇異な印象を訪れる者に与えていた。だが、今ではもう見ることができない。
ここ千葉県木更津市にある金田海岸では、かつて丘から海へと無数の電柱が続いていくという、物珍しい光景を見ることができた。またそこから少し南へと行った久津間海岸、江川海岸では、今でも同様の光景に出くわす。かつての金田海岸がそうであったように、いずれの場所においても、電線はそれぞれの電柱を伝うように沖の方へと伸びており、それはまるで、伝言ゲームを楽しむ子どもたちの姿を彷彿とさせる独特なものとなっている。
見る者によってそれは、洪水などで水没してしまった街の景色なのかもしれない。いずれにしかり、そのある種幻想的な光景は、各人の心の中にある何かに、不思議な訴えかけをもたらすものであろう。
こうした「海へと続く電柱」は、海底ケーブルを使った送電網が当たり前のものとなった今も、日本各地に点在している。たとえば『二階堂酒造』のCMに登場する電柱群は、熊本県宇土市にある長部田海床路を映したものだ。当地の場合は、海苔の養殖や貝を獲る猟師のために設けられたものだという。だが、この一帯に限っていえば、その詳細については判然としない部分も多く、ある地元民の話によると、沖にあるあさり密漁を監視する小屋へと引き込まれているのだというが、定かではない。さすがに押し寄せる時代の波によって、あさりの密猟者までが減ったとは考えにくいが、仮に監視小屋のための送電だとすれば、少なくともそうした目視による監視体制は、もう時代にそぐわないものとなりつつあるのかもしれない。
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