「3.11以降に自覚された“恨めしい思い”を描いた」カフカ原作映画『断食芸人』で描かれた恐怖 足立正生監督インタビュー

■国境を守ることで何を維持しているのか?

――映画の中で出てくる医者が「国境を守る医師団」って言ってるじゃないですか?あれはどういった意味なんですか?

足立 国境を越える医師団とか記者団とか色々あるけれども、本当はそうであるべきでしょ? だけど、ここまで進んだ管理者会の中で、まさに今、EUは中東やアフリカからの移民に対してずーっと国境を守っているでしょ。日本も毎年7万以上の人が政治亡命とか色々求めてくるんだけど、認めるのはたかだか300人。

 国境を守ることによって何を維持しているのか。「そういうことが本当にくだらないことだ」っていうのが出るように、しっかりと国境を守る医師団がああいうことになってる。

――話を聞くとまた観たくなりますね。

足立 イメージは、台本に「ねじ式の女医」って書いてあるのね。ねじ式の女医っていったら、つげ義春さんが書いたイメージがあるんだけど、つげさんのパロディ風に書いてある。

 僕のイメージの中ではその女医さんのイメージがいっぱいあったんだけど、助監督さんがきて「監督あの、ねじ式の女医さんってこれでいいんですかね?」って、座敷に和服着て座ってる。「いや、そうじゃ無いのがあるはずだ」ってずいぶん探してもらったんだけど、結局それは私の頭の中の妄想で、ねじ式の女医さんはいなかったね。

 演じる伊藤弘子さんも、ねじ式っていうんで一生懸命つげさんの作品を読み直したりしてくれたみたいで。お見えになったときに「サド・マゾのムチ持ったサドの女王でいいんじゃないでしょうか?」っていったら「あ、それでいいんですか?」ってね。お芝居やる人ってみんな勉強するんですよ。でも、その勉強が全く意味なかったと(笑)。

――でも、凄く入り込んでる感じがあるんですよね。伊藤弘子さんもすごいですけど、若いヒロイン役の井端珠里さんもすごいですね。あのラブシーンは衝撃的でした。

足立 この間、ある映画監督と2時間ぐらい話をしたんですけど、その監督も「あそこから新しい足立の映画が始まる」と、言ってましたね。「あそこだけで映画にできませんか?」って言われて「それはえらいキツイ批判やな」って言ったら「いやいや、そういう意味で言ってるんじゃない」と。

――傷を舐め合うってことですよね。

足立 結局、何でこんな映画作ってるのかって言ったら、それはあなたやあなたに伝えたいし、もっと若い人に伝えたいというのがあって。それにはメッセージを言ったってしょうがない。

 じゃあ引きこもりの男と自傷癖僻の女のこの2人が、ブラックホールに引き込まれるみたいに出ていって、自分の存在を伝えとられたらどうするかっていうような仕方で考えて欲しいし、「ここから先、言われるのはあんたたちだよ」というぐらいの映画の終わり方にしてるから、あそこから紙芝居ではなくなったものが出てきちゃってるんですね。それは、話をした割合優秀な映画監督がそう言っておりました。

「3.11以降に自覚された恨めしい思いを描いた」カフカ原作映画『断食芸人』で描かれた恐怖 足立正生監督インタビューの画像6足立正生監督

――井端珠里さんがさまよってるシーンあるじゃないですか。あそこはカメラワークとかも凄くかっこよくて。さまよっている感じがもの凄いですね。

足立 「いない、いない」ってね。

――最初見つけたときは、井端珠里さんが手首を切るシーンで、あの男性が手を握って止めるじゃないですか。それで、あの男性を手で見つけたのかと思ったんですが、でも2回目に観たらちゃんと顔を見てるんですね。

足立 あの引きこもりの男がチンピラに立ち向かわないので、おおいに批判はされてるんですよ。でもそれは冒頭のシーンと同じで「立ち向かえない何か」ね。

 そこの街のチンピラは自警団とか興行師と同じようにひとつのシステムなわけでしょ?だから「それに対してどう闘うか?」っていうことができないから最後に自分を賭けてみると。それで簡単に殺されちゃうというね。

――断食を続けたのが何故50日なんですか?

足立 だいたい普通、30日の行とかやるでしょ。最近は健康維持のために芸人が入院して断食したりしてるけど、ああいうのもみんなだいたい30日なんですよね。

 だいたい1週間から10日目ぐらいから、この世とは関係無い世界が多少出はじめるみたいで、30日ぐらいになると安定するんですよね。モハメッドとか釈迦とかキリストとかみんな断食してるんですけど、キリストはあれインチキなんですよ。これから悟りにいきますって砂漠に出ていくでしょ。それで40日後に健康な顔して帰ってくるんだけど、中東では非常に栄養度の高いナツメヤシの実の乾かしたのがあるのと、ドライいちじくがあるので、それをわんさと持っていって、どこか水の出るところを見つけて、それを食いながら水を飲んでりゃ40日50日平気だから。

 その間にどうやって人を騙したらいいのかって考えてただけの話であって、悟りもへったくれもあったもんじゃないですよ。例えばそういう風に言えるワケですよね。

 どうでも良いことが気にならなくなるのがだいたい30日過ぎてからみたいですよ。


※インタビュー第2回に続く


■「断食芸人」
公式ホームページ https://danjikigeinin.wordpress.com
2月27日より渋谷ユーロスペースを皮切りに、全国32カ所で上映。

■足立正生
1939年生まれ。日本大学芸術学部映画学科在学中に自主制作した『鎖陰』で一躍脚光を浴びる。大学中退後、若松孝二の独立プロダクションに加わり、性と革命を主題にした前衛的なピンク映画の脚本を量産する。監督としても1966年に『堕胎』で商業デビュー。
1971年にカンヌ映画祭の帰路、故若松孝二監督とパレスチナへ渡り、パレスチナ解放人民戦線のゲリラ隊に加わり共闘しつつ、パレスチナゲリラの日常を描いた『赤軍-PFLP・世界戦争宣言』を撮影・製作。
1974年重信房子率いる日本赤軍に合流、国際指名手配される。1997年にはレバノン・ルミエ刑務所にて逮捕抑留。2000年3月刑期満了、身柄を日本へ強制送還。
2006年、赤軍メンバーの岡本公三をモデルに描いた『幽閉者 テロリスト』で35年ぶりにメガホンを取り、日本での創作活動を再開。そして今年、足立正生監督復帰2作目がこの「断食芸人」だ。

■取材・文=ISHIYA
JAPANESE HARD CORE PUNKバンド FORWARDのボーカルでありフリーライター。
REAL SOUND」「INDIES INFO 連載コラム」「PUNK ROCK ISSUE BOLLOCKS 連載コラム」「SUUMOジャーナル」「土木建築系総合カルチャーマガジン『BLUES’ MAGAZINE』」で執筆中。

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