佐村河内守に森達也が挑む超問題作『FAKE』が突きつける真実とは?
オウム真理教の信者をテーマにした『A』、テレビ放送の自主規制問題を浮き彫りにした『放送禁止歌』など、これまでも見るものに刃を突きつけるような作品を撮り続けてきた森達也。彼の15年ぶりの新作は『FAKE』。タイトルはウソ、偽り、偽物という意味である。
2014年、作曲家・佐村河内守のゴーストライター問題が週刊文春で報じられた。テレビマスコミは便乗し、ゴーストライター騒動は即座にお茶の間にまで広がっていった。成功者を妬み、引きずりおろすことにかけては、テレビメディアは天才的な手腕を発揮する。
そんな中、森達也はカメラを持ち、佐村河内守の自宅を訪れていた。マンションの部屋で佐村河内守と妻、一匹の猫は、世間からのバッシングという強烈な台風を避けるかのように、静かに暮らしていた。
長い取材期間にはさまざまなことが起こる。人を心底馬鹿にしているようなテレビマンたちが、彼の元にバラエティー番組の打ち合わせに現れる。夫妻が聴覚障害者に話を聞きに行き、耳に障害を持つ人が、内なる音楽を楽しむ場面もある。森達也がもう一人の当事者・新垣隆のサイン会に直撃するシーンでは、緊張が走る。
ラストシーン近く、佐村河内の取材をする海外ジャーナリストは事実を積み重ね、彼の作曲能力に鋭く疑問符を突きつけた。その後、佐村河内が起こした驚くべき行動がこの映画の肝となっている。そのラストシーンは劇場で確認してほしい。
森達也は、この映画だけでなくほかの作品や著書で常に『真実を見る目を持て。ただしメディアにも、主観というバイアスはかかっているんだよ』と主張し続けている。
『FAKE』も観客の心持ちしだいでどうとでも取れる。個人的にはこの作品は佐村河内夫妻の恋愛物語にも見えた。佐村河内の手話を通訳する妻・かおりは常に彼に寄り添っている。二人で出掛けるときは、手をつなぐ。夫婦だから当たり前のことだが、なかなかカメラの前でさらすことができるものではない。
さらに森達也が佐村河内に「(奥さんを)愛している?」と問いかけるシーンがある。口ごもる佐村河内。その間、その答えが世間で喧伝されている佐村河内とのイメージと違い、取材者と被写体の信頼の深さを感じさせた。
だしそれら全ても、森達也からの言葉を借りれば、 『誰が嘘をついているのか。真実とは何か。虚偽とは何か。そもそも映画(森達也)は信じられるのか……。』ということになってしまう。監督本人がそう言っているのだ。
佐村河内は本当のことを語っている? ドキュメンタリーのウソとは? そんな大上段に構えなくてもいい。 あの騒動の当事者・佐村河内守が食事の前に豆乳を大量に飲んだり、机を指で叩きながら『トルコ行進曲』をハミングしたりというお茶目な行動を見せる。それは佐村河内の真実だ。『FAKE』は作品になった時点でエンターテイメントドキュメンタリーだ。余計な前情報やドキュメンタリーを疑う心なしに楽しんだ方がいい。
『FAKE』は東京・渋谷ユーロスペースでロードショー。全国公開中。
■『FAKE』公式サイト
・http://www.fakemovie.jp/
■森達也(もり・たつや)
1956年、広島県生まれ。映画監督、作家。1998年オウム真理教信者のドキュメンタリー『A』で注目される。主な作品に『A2』『放送禁止歌 〜歌っているのは誰? 規制しているのは誰?〜』『ドキュメンタリーは嘘をつく』。初の長編小説『チャンキ』(新潮社)など著書多数。
森達也オフィシャルウェブサイト:http://moriweb.web.fc2.com/mori_t/
■松本祐貴(まつもと・ゆうき)
1977年、大阪府生まれ。編集者・ライター・世界のマイナー酒・居酒屋研究家。大学在学中からライターをはじめ、その後、雑誌記者、出版社勤務を経てフリーで活動する。テーマは旅、酒、サブカル、趣味系など多数。初の著書『泥酔夫婦 世界一周』(オークラ出版)が発売中。
ブログ~世界一周~旅の柄:http://tabinogara.blogspot.jp/
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