男性の女体化、物体の擬人化の背景にはBL文化の存在が?國學院大學非常勤講師・伊藤慎吾インタビュー
――その違いはどこにあるのでしょう?
伊藤 今の萌え擬人化されたキャラクターとは、ターゲットがまったく違いますからね。豚がコックの格好をしたキャラクターが子どもや家庭をターゲットにしているのに対し、萌え擬人化はそれよりも上の世代、つまり10代の男女から大人がターゲットです。また、ぬいぐるみのような可愛らしさではなく、美少女やイケメンなどのいわゆる“萌えるキャラ”としての受容は、90年代から徐々に広がり、2005~6年頃から同人誌を中心に急激に広がり、『ヘタリア』によって一般にも浸透していきました。
たとえば、同人誌の世界には鉄道を擬人化したキャラクターがあります。鉄道を擬人化すること自体は、割と昔からあったのですが、それは鉄道を漫画やイラストで解説する際に、あくまで解説者としての役割を果たしていただけに過ぎませんでした。
ですが、00年代に入ると後に『青春鉄道』という漫画がヒットする青春(あおはる)さんが同人作家として台頭します。この人の作品では、鉄道路線自体が擬人化され、ストーリーが展開していく。たとえば京浜東北線は利用者は多いけれども、始発駅である大宮から大船駅まで利用する人は少ないため、メインにはなれないなどのキャラ付けがされます。
それまでは鉄道を解説するために便宜的に擬人化されていた鉄道が、青春さんに代表される萌え擬人化作品は解説ではなく、キャラクターとして個性を持ち、それらが繰り広げるストーリーがメインになっているんですね。こうした物語を受容しているのは主に女性で、その前提にはBL文化があります。BLとしてさまざまなものをキャラ付けしていく時に擬人化は非常に有効で、さらにみんなが知っているものを擬人化するとコンセンサスが得やすく、新しい作品が作られていくんです。つまり、今の萌え擬人化作品の特徴は、物語を楽しむためのキッカケとして擬人化という趣向が凝らされていることでしょう。
――現代では、歴史上の男性を女性へと変更し、物語が進む、いわゆる“女体化”の作品も数多くありますが、これもその一部に入るのでしょうか?
伊藤 そうですね。女体化は戦国武将を扱ったものでは特に盛んです。たとえば『織田信奈の野望』は、実在した戦国武将を女体化しています。その時、織田信長などのような知名度が高い武将は、性格を現す逸話までも伝えられているため、女の子としてキャラクター化した時に、どう逸話を取り込んで描かれるかが興味を惹きます。
たとえば、純文学では、物語を読み進めないと主人公がどんな人物像を持つのかはわかりません。ですが、知名度が高い武将を女体化すると、読み手もあらかじめ承知したキャラクターなので非常に受け入れやすいんです。信長なら唯我独尊な女の子、三成なら頭の良い女の子で清正と仲が悪い、松永久秀なら年上の悪女みたいに。女体化も男体化も盛んになる時期が擬人化のブームと軌を一にしています。現代におけるキャラクター造形として同じ枠組みのなかで見ていくべきなのかなと思いますね。
――今回、さまざまな専門分野を持った執筆者が1冊の本を書いているわけですが、あらためて読み返しどんな感想を持ちましたか?
伊藤 古代、中世、近世といった過去の作品や、その中に登場するキャラクターを取り上げながら、現代の文化を扱ったので、古代や中世にも現代に通じるキャラクターがいるということをわかってもらいたいですね。ただ、そうなると情報量がどうしても多くなってしまうので、今回はあえて“異類”に限定しています。1冊通して読む必要はなく、気になるキャラクターを索引で調べて、それについて書かれているところだけ読んでいただければ楽しんでもらえるのではないでしょうか。
(取材=本多カツヒロ)
伊藤慎吾(いとう・しんご)
1972年埼玉県生まれ。國學院大學非常勤講師。
専門は、物語研究、室町文化史、キャラクター文化論。
著書に『室町戦国期の文芸とその展開』(三弥井書店)、『室町戦国期の公家社会と文事』(同)などがある。
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2024.10.02 20:00心霊男性の女体化、物体の擬人化の背景にはBL文化の存在が?國學院大學非常勤講師・伊藤慎吾インタビューのページです。妖怪、本多カツヒロ、擬人化、異類、伊藤慎吾などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで