人間がチンパンジーに発情しない理由とは? 生態学者・五箇公一が語る「生物多様性」から、ハイブリッド生物、UMAの見分け方まで
近年テレビや雑誌などで耳にすることが多い“生物多様性”。身近なところでは、北米から来た外来種・ブラックバスの問題。大きな意味ではジカ熱、エボラ出血熱というウイルスによる感染症までを含んでいる地球環境保護の基礎となる大きなテーマだ。
今回は、国立環境研究所の外来生物研究プロジェクト・リーダーである五箇公一(ごかこういち)先生にその“生物多様性”を全6回にわたり解説してもらった。さらにはtocana読者が知りたいであろうハイブリッド生物、昆虫宇宙人説、火星での生命発見の可能性など不思議な質問を誰にでも理解できるようわかりやすく教えてもらった。そして、生命が織りなす神秘の世界はとてつもなく面白いということに気づかされた。
■自然ではあり得ない移動をしてくる外来種たち
まずは、生物多様性・ダニ学の専門家、五箇先生にまずは、どのような研究をしているかを伺った。
——五箇さんは国立環境研究所で、どのような研究をなさっているのでしょうか? また生物多様性について簡単に教えていただけますでしょうか。
五箇 国立環境研究所は温暖化対策、汚染対策、野生動物の保護など地球レベル・地域レベルの環境問題に取り組む研究所です。私の専門は、外来生物や農薬など生物多様性を脅かす要因のリスク管理になりますね。
——海外から入ってくる生物や汚染物質が日本の環境にどのように影響を与えるかを調べているということですか?
五箇 そうです。外来生物に対しては、日本の固有種がどれくらい影響を受けて減ってしまっているのかという調査やこれ以上影響が生じないようにするために駆除する対策、輸入しないためのシステムを考えています。ひとことで言えば“生態系保全”です。
2005年からは外来生物法という法律ができました。この法律を作る時にも我々の「外来種がいかに生態系に悪いものであるか」という科学的な研究データが活用されました。法律ができてからは、ブラックリストの作成にも貢献しています。
■侵略的な外来種がもたらす深刻な事態とは?
——ブラックリストには侵略的な外来種が載っているんですよね。素人考えだと、外来種と固有種が混ざるのが自然だと思うのですが。
五箇 たしかに「外来種が来て、種が増えて、何が悪い」という意見もあるんです。太古からの生物は、台風で飛ばされたり、海流で流されていたりして、新しい場所にたどり着いてきました。そこで、元々いた生物と敵対したり、食う・食われるの関係になったりします。交尾、交雑をして新しい雑種を作ることもあります。そこで新しい遺伝子型が生み出されて、新しい種が生まれる。もしくは種が入れ替わり、新しい生態系が作られる。それが生物進化の歴史として繰り返されてきたわけです。
実は人間自身もホモサピエンスとして生み出された種が、同じ時代に地球上に生息していた別の類人猿ネアンデルタール人と戦ったり、交尾をしたりして、駆逐して人間という種が地球上を占領したといわれています。
種と種の交わりや戦いは昔からあるんですが、現代の外来種は生物学的に多くの問題をはらみます。そのひとつは、本来の自然の進化では起こらないような移動が行われていることです。
■ブラックバスが日本在来の魚類を絶滅に追い込む?
——なるほど。自然ではあり得ない移動が問題なんですか。
五箇 例えば、北米の魚・オオクチバス。いわゆるブラックバスですね。1925年に明治政府が食用目的で芦ノ湖へ輸入した魚です。元々は芦ノ湖限定で増やして食べるはずでした。でも、誰も食べないまま、戦後になり、釣り目的で日本国内のあちらこちらに逃がされてしてしまった。結果ブラックバスは全国に分布を拡大し、めだか、ワカサギなど日本在来の魚類が食べられてしまった。今は、環境省のいわゆるブラックリスト、正確には特定外来生物に指定されています。
元々北米の湖に住むブラックバスが一足飛びで日本に来ることはあり得ないんです。自然な進化の歴史では、生物たちのコンフリクション(争い)やクロスコンタミネーション(交わり)は生物の動ける範囲でしか起こりませんでした。でも今は人間がすごい距離をすごい速度で動かしてしまう。今までの進化のルールが通じない世界になってしまっている。在来種が外来種に対してインタラクション(相互作用)するにしても進化の時間が間に合わない。いままで出会ったことのない大型肉食魚のオオクチバスに対して日本のメダカが進化する時間もないままに食べられているというのが現状です。この異常な、時空間を超越した生物の移動はいくらなんでもやり過ぎじゃないかと考えなくてはなりません。
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