宇宙と芸術展より
今年下半期大注目の展覧会『宇宙と芸術展』が、六本木ヒルズの森美術館にて、来年1月9日まで開催される。
森美術館の大きなテーマ展といえば、『医学と芸術展』(2009~2010年)や『LOVE展』(2013年)が記憶に残る。どれもキュレーターがテーマに沿って世界中から作家や作品をチョイスして展覧会全体を構築する大掛かりなものであった。
今回の『宇宙と芸術展』は、昨今注目されている新宇宙時代の到来に呼応したものだが、科学技術展ではなく、あくまで美術文化史的なものであるという。宇宙という壮大すぎるテーマのために集められたのは、古美術から現代アート、貴重な歴史資料から最新の宇宙科学まで、芸術作品とそうでないものが混在する展示に戸惑う鑑賞者もいるかもしれない。だが、それこそがネット時代に世界の巨大展覧会の支流となっている“百科全書的”や“驚異の部屋”ともいわれるスタイルである。
展示全体は4部構成となっている。最初に東洋の宇宙観や西洋近代の天文学を一望し、セクション2で宇宙と現代アートのかかわりを探り、セクション3で宇宙人という新たな生命感に思いを馳せつつ、最後のセクション4では現代の宇宙開発の現状とさらなる宇宙観や人間観の変化を予見する。出展数約200点、展覧会の内容をさらに順を追っていこう。
「セクション1:人は宇宙をどう見てきたか?」
■多次元宇宙(マルチバース)を先取りした曼荼羅の魔力
会場に入ると、東洋の宇宙観から展示が始まる。ここで取り上げられているのが、特に曼荼羅である。キュレーター椿玲子の説明によれば、たとえば、室町時代の《両界曼荼羅》は9つの宇宙から出来ており、現代の宇宙科学で語られるマルチバース(多次元宇宙)の先取りとも読み解けるという。そこには東洋における卓越した宇宙観や物事に対する深い観察力をみてとれるのだ。そのような東洋の宇宙観を反映しているものとして、インドの《グヒヤサマージャ立体マンダラ》や向山喜章らの現代の作家たちの作品も並ぶ。
それに続くのが、江戸時代の天文学。映画『天地明察』でも描かれた渋川春海が天文観測によって作った天体図をみれる。それまで、日本は主に大陸からもたらされた天文学資料に頼っており、日本独自の天体観測データは正確に残してこなかったという。また、珍しいところでは鉄隕石から作られた《流星刀》もある。そして、なんといっても日本最古のSF小説といわれる《竹取物語》が素晴らしい。月から来た女性が描かれていたことから、日本人が古くから宇宙に思いを馳せてきたことがよくわかるのだ。
さらに、西洋近代科学の天文学についてのコーナーが続く。レオナルド・ダ・ヴィンチの天文学についての手稿の他、ガリレオ・ガリレイの望遠鏡などもある。ここで注目なのが、中世のオカルト体験談などを絵画や立体作品にして、現代に蘇らせているローラン・グラッソの一連の作品である。彼は昨年、東京のエルメスでも同様の展示をして話題となっており、その作品はユングの空飛ぶ円盤の研究を彷彿とさせるもので、人類は過去においてもずっと不思議なものを空にみてきたのだと痛感させられる。