築地は自らの首を絞めた? 今更聞けない、移転にゆれる築地市場の価値
■スーパーの進出に自らの首を締めた築地市場
「場内外の飲食店というのは、産地のオヤジさんたちの接待や買出人たちの憩いの場として使われていたんですよ。それまでの魚屋は昼過ぎくらいに店を開けるものだから、競りが終わると商品を茶屋(配送屋)に預けて仲間とビールを呑んだり、寿司をつまんだりしてのんびりやっていたわけなんですよ。ところが街にスーパーができ始めるとあちらは10時オープンなわけだから、魚屋としてものんびりあぐらをかいているわけにはいかなくなってしまったんです。競りが終わると皆まっすぐ帰るようになって、場外市場なんてガラガラになってしまったんです。それがバブル崩壊後しばらくした頃のことですね」
当時、市場関係者が客の大半を占めていた築地場外の各店舗は困ってしまい、都に嘆願して「築地は卸売市場で小売りはしないけど飲食はできますよ」といった内容のビラを配り始めたのだ。観光地化した今でこそ築地に寿司を食べに行くというのは当たり前の話だが、そういったビラを見て「どうやら一般人の我々でも食べに行ってもいいみたいだ」と、物珍しさにチョロチョロと人が来るようになったのだという。
いざ来てみると少し値段は高いが、味はいいし市場のノスタルジックな独特の雰囲気が拍車をかけて人気が出始めた。当時は競り場も閉鎖的な部屋になってなく、素通しで柱が立っているだけで誰でも見に行くことができたのだ。「今では観光客を邪魔者扱いしているけど、結局市場を観光地にしたのは築地の人間なんですよ」と、森本前市場長は語る。
築地の外国人観光客といえば、直接魚を触ったり、競り場でフラッシュをたくなどのマナーの悪さが問題となり、2008年にはやむなく「見学禁止」にふみきったのが森本氏なのだ。全員が全員マナーを守らないわけではないが、競り場でタバコを吸ったり、勝手にターレを動かしたりとやりたい放題。市場関係者がいくら注意してもまったく効果はなかった。もちろんマナー違反の問題は外国人に限った話ではない。
築地の警備員に話を伺うに、「本来なら一般の方は14時までなんですけど、移転のせいもあって結構時間外でも入ってきてしまうのですよ。市場では従業員が帰った後もダンベやストッカー(冷蔵庫)に高額な商品が入っているのですが、先日もロシア人がバールか何かでダンベをこじ開けマグロを盗むという事案がありました」と内情を語ってくれた。
■もんぜき横丁のらあめんはバブルの残り香
築地場外市場の玄関口、新大橋通りに面したもんぜき通りには立ち食いスタイルのらあめん屋や老舗のもつ煮屋などが並んでいる。築地といえば寿司なのになんでこんなにらあめん屋が立ち並んでいるのか疑問に思ったことのある方も多いだろう。この謎も「バブル」というキーワードが大きく関係している。
中には戦後からやっている店もあるが、バブル期に営業を開始した店がかなり多い。築地という名前のブランド力のせいで薄れがちだが、銀座から歩いても10分ほどの利便性の良い土地。バブル期には銀座で呑んだ後、しめ感覚で築地までタクシーを飛ばす人が多かった。やはり酒の後ということもあって、寿司よりも「らあめん」ということでニーズに応える形でらあめん屋ができ始めたのだ。そのうち、銀座だけでなく六本木や麻布界隈で呑んだ帰りに築地で「らあめん」というコースがバブル期に流行ったのである。もんぜき横丁に連なるバブル期はその名残りなのである。
移転に向けて場外市場にも「築地魚河岸」等新しい施設が建設されてきたが、移転自体が暗礁に乗り上げている今、市場関係者が抱えるこの先の不安は計り知れないだろう。今後小池都知事がどのような決断を下していくか目が離せない。
(アナザー茂)
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2024.10.02 20:00心霊築地は自らの首を絞めた? 今更聞けない、移転にゆれる築地市場の価値のページです。アナザー茂、築地などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで