謎多き画家フェルメールの絵が質素で静かな理由とは? 実は描かれていた「その先の世界」
――エカキで作家・マンガ家、旅人でもある小暮満寿雄が世界のアートのコネタ・裏話をお届けする!
日本にはルーヴル美術館や大英博物館ほど世界的に名の知れた美術館はない。しかし、集客力という面でいえば、日本で行われる展覧会は、入場者数が世界有数なのだそうだ。東京都美術館で開催された「生誕300年記念 若冲展」の混雑ぶりも記憶に新しい。ところが近年になって人気が急上昇した画家の筆頭は、あのヨハネス・フェルメールだという。
■フェルメールが高価な絵の具を使い放題だった理由
「天文学者」や「レースを編む女」など、公開されれば大行列必至というフェルメールだが、彼の生涯について詳しいことはほとんどわかっておらず、謎めいた画家として知られている。
フェルメールといえば、父親が借金を抱えていたにもかかわらず、当時純金よりも高価だったという鉱石「ラピスラズリ」を原材料とした“青”を用いることができたことで知られているが、それは母親が“豪商の娘”だったからだといわれている。
そう、当時のオランダは、商人たちによる新興国家であり、裕福な市民が勃興してきた時代。この時代背景を知らずしてフェルメールの絵を語ることはできないのであるーー。
■スペインからの独立/貴族だけではなく、一般市民も絵を買い求めた時代
商人による新興国家ということは、当時のオランダ社会において絵画を買い求めたパトロンが、王侯貴族や教会などではなく富を手にした市民層だったことを意味する。八十年戦争の末、スペインの支配から独立したネーデルランド連邦共和国(かつてのオランダ)は、商魂逞しいオランダ商人たちの活躍で、たちまちヨーロッパ随一の貿易国へと躍り出た。オランダ商船は大航海時代の波に乗り、世界中の海を闊歩したのである。
スペインから開放されて気楽になったのか、当時のオランダ絵画市場は、ずいぶん賑やかであったそうだ。青空市場やケルメスと呼ばれる縁日などでは、かなり安価に絵画が売り買いされていたという。
裕福な商家はもちろん、町のパン屋さんや肉屋さん、あるいは鍛冶屋や靴直し職人といった、今まで絵画に縁のなかった人たちまでもが店先や炉端、屋台などに絵を飾るようになっていったというが、おそらくは投資の目的もあったのだろう。フェルメールやレンブラントまでもが画商を兼業していたのは、そんな時代背景もあったのだろう。
どちらにしても、オランダ絵画を支えたのが、衣食足りて小金を持つようになった市民層であった点は、今も昔も変わらぬ経済論理に則したものといえる。
■なぜオランダ絵画には宗教画が少ないのか?
さて、フェルメールをはじめオランダ絵画を見渡してみると、宗教画が意外なほど少ないことにお気づきだろうか。なにしろ一般市民が買い求める絵だから、極端に大きな作品が少ないことは頷けるのだが、イエスや聖母マリア、十二使徒などを取り上げたキリスト教の絵画が少ないのはなぜだろう?
これは、オランダがプロテスタントの国であることに起因する。
同じクリスチャンでも、ローマ教皇に反発して起きた宗教革命以後の、いわゆるプロテスタントという教派は基本的に偶像崇拝を禁止していたのである。また、それまでオランダを支配していたカトリック国、スペインのハプスブルグ家に対する反発もあったのだろう。
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