五億年の生命の記憶から人体がわかる! 解剖学者・三木成夫を解き明かすその弟子・布施英利インタビュー
――新刊『わかりたい! 現代アート』(光文社文庫)は、この本と同時期に執筆されています。
布施「カラダと現代アートは全然違うかもしれないけど、自分としては、そんなに違ってもいない、専門でジャンル分けしないで、面白そうなことには首を突っ込んでいくという感じなんで」
――ところで、TOCANAとして、ぜひお聞きしたいことなのですが、五億年後の人体とはどうなっていると思われますか?
布施「今までの生物の進化で見てみると、不思議に思うのは、例えば、猿は人間に進化しましたけど、今も猿はいますよね。猿の前だったら、哺乳動物ですから、クマでも、ライオンでも、犬でもいい、なぜか進化しないで残っていく種もあるんです。だから、五億年後の人間も、今と同じものも残っていて、さらに違うものが生まれているんじゃなかって思うんです。そう考えると、人間の中でも頭がいい奴が進化していくんだろうと思われるけど、自分たちもバカだとして、バカはバカなままで滅びることなく生き延びることがあるんじゃないかなって。ただ、それが連続しないでトビトビなんです。だから、過去に学ぶなら、徹底したバカがしぶとく生き残ると思いますよ(笑)」
――最後に、今回の本を作るにあたって、こだわったところを教えてください。
布施「老壮青という言葉があって、老人、壮年、青年のバランスが取れていると人間集団として強いという意味なんです。この本を作るときも、編集者が70代の男性で、デザイナーが30代の女性、そして、私の3人で作りました。だから、老壮青のバランスは大事だと思います。お互いに必要なものとして尊敬しあって、活用し合うみたいな」
――表紙に「切れ目」が入っていて、びっくりしました。
布施「それだけじゃないんです(笑)。表紙の人体の色はうんちで、この切れ目は、内臓が覗いているけど、背骨にも見えます。そして、カバーの下の表紙の青は、生命が誕生する前の海ですね。だから、全部がこの表紙のデザインに入っています。実際に切れ目を入れるということについては反対されたんですけど、強行に通しました。人体を切るというのは、解剖そのものも象徴しているので」
――いろんなところに仕掛けがありますね。
布施「本の全体の構成もシンメトリーになっています。目次は自分にとっては“絵”だから、全体で半円になっていて、それ自体が人体の見取り図のようになっています。本を作るときは、みんなが気づかないようなことをやって、それがモチベーションになっているところもあります。それでも自分は一生、何をやってきた人間かといえば、本を書いてきた人間として終わりたいんです。うちの息子にも、50年後くらいにお父さんの本を研究する人が出てきたら、本作りのこだわりこそ、取り上げられるんじゃないかって言われて。ちょっと嬉しかったんですけどね」
――そこにも三木成夫の影響があるようにも思えます。
布施「そうですね。10年後くらいにまた三木成夫の本を書くことになるかもしれません。三木は、塩を水に溶かしてメビウスの輪にシェイクすると、味が変わると言って、生徒たちに舐めさせていました。正直、味の違いなんてわからないんですけど、そういうオカルト的なところも三木の魅力でした。次は、そういうのに取り組んでみようかな(笑)」
布施英利(ふせひでと)
解剖学者・美術批評家。1960年群馬県生まれ。東京芸術大学美術学部卒業。同大学院美術研究科博士課程修了(美術解剖学専攻)。東京大学医学部助手(解剖学)などを経て、現在に至る。大学院生のとき、恩師・三木成夫の紹介で養老孟司と出会い、27歳のとき養老との共著『解剖の時間』を出版、28歳で単著『脳の中の美術館』を出版。大学院生のときに出版したこの二冊を皮切りに、現在まで約50冊の著書を出す。主な著書に『脳の中の美術館』『体の中の美術館』『絵筆のいらない絵画教室』『自然の中の絵画教室』『「進撃の巨人」と解剖学』など。また美術批評の著作も多く、『「モナリザ」の微笑み』『構図がわかれば絵画がわかる』『遠近法がわかれば絵画がわかる』など。解剖学をベースに芸術と科学の交差する美の世界を探求している。
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2024.10.02 20:00心霊五億年の生命の記憶から人体がわかる! 解剖学者・三木成夫を解き明かすその弟子・布施英利インタビューのページです。村上隆、ケロッピー前田、三木成夫、会田誠、布施英利などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで