秘密結社、ロスチャイルド、トランプ…陰謀論研究の先駆け・海野弘インタビュー「陰謀論には2つの法則」「東京五輪まで混乱か」

――「カリフォルニア・オデッセイ」シリーズ6冊を出版されたあとに、『陰謀論の世界史』(文藝春秋/2002)を出されるわけですね?

秘密結社、ロスチャイルド、トランプ…陰謀論研究の先駆け・海野弘インタビュー「陰謀論には2つの法則」「東京五輪まで混乱か」の画像3海野氏

海野 そうですね。その頃アメリカでも陰謀系の本がずいぶん出てきました。日本では『ユダヤの謀略世界革命運動の秘密』著者の太田龍や『ユダヤが解ると世界が見えてくる』著者の宇野正美らのユダヤ陰謀説が多数出版されたりしましたね。陰謀論者って仲間意識があって、太田龍さんも「太田党に入れ」ってことで、本を私のところにバンバン送ってきたりしましたよ。私が反応しなかったので、そのうちあきらめちゃいましたけど。それでおもしろい話があって、怪しい人が近づいてきたこともありました。もうな亡くなったけど、馬野周二さんというやっぱり陰謀論の本を出している人がいたでしょう? その馬野周二さんと僕を引き合わせた人がいるんですけど、日米の両方の血を持った人でね。日本語がうまいんだけど、印象としてはアメリカの情報機関に関係のある人だったのかなと思いましたね。なんで僕だったんだろうと思うんだけど、「馬野さんと3人で会いませんか」と言ってきた。何回か会ったけど、いつも赤坂のホテルの高級レストランでご馳走してくれるわけですよ。


――何か情報を聞き出そうとしたんですか?

海野 どうなんでしょう。自民党ともつながりがある人物みたいで、馬野周二さんはそういう情報も詳しいようでしたが、僕は政治方面は興味なかったので、よくわかりませんでしたね。陰謀論者って「イン」か「アウト」の2つに分けられるんです。「イン」は陰謀論を完全に信じている人で、「アウト」は陰謀論から距離をおいて、批判的に取り上げる人ですね。僕はどちらでもなく、おもしろいと思って客観的に取り上げていた。僕は陰謀論以外にもホモセクシャルに関する本も書いていて、そういう姿勢で書いていると、ホモセクシャルの世界の人に好かれたりしましたよ。「薔薇族」元編集長の伊藤文学さんとかね。ホモセクシャルの世界について普通の視点で書く人って少なかったんです。陰謀論にしてもそうで、僕はどんなにくだらない説でも、信じる人がいるなら一つの力になると思うんですね。人間の現象として見ると、何だっておもしろいんですよ。おもしろいと思ったことを「これは何なんだろう」と思って調べるというのが僕の姿勢なんです。


――インターネットが登場する前は資料を調べるのも大変だったでしょうね。洋書もたくさん読まれていると思いますが、英語は最初からできたんですか?

秘密結社、ロスチャイルド、トランプ…陰謀論研究の先駆け・海野弘インタビュー「陰謀論には2つの法則」「東京五輪まで混乱か」の画像4陰謀の世界史(文春文庫)

海野 美術史をやっていましたから、英語とフランス語はできたんです。それに専門はロシア語でしたから(注・海野氏は早稲田大学文学部ロシア文学科卒業)ロシア語もできた。だから、誰も興味を持たないような本を読んでくることができて、その中の陰謀について1冊まとめようかなと思ったんですけど、どうせ書くならきちんと書きたいから、(400字の原稿用紙で)1000枚ぐらいは書こうと思ったんです。でも、出版社も決まっていなくてね、あてがなく書いたんですよ。最初から出版社に「こういう本を書きたい」って告げると、「もっと短いもの、簡潔なものにしてくれ」と言われますからね。いろいろ注文がつくと面倒くさいから、とにかく書いてから出版社を探そうと思って、書き始めたんです。何とか書き上げたら、たまたま文藝春秋で出してくれることになったから、よかったんですけどね。それが『陰謀論の世界史』(文藝春秋)ですね。


■「すべてはつながっている」と「すべては今である」

――その後もずっと秘密結社とか陰謀に興味を持ち続けているのはなぜでしょう?

海野 僕が興味があるのは、人間と人間のつながりなんです。セクトとか結社というのは人間の活動や裏切りなど、人間の様々な面をドラマチックに見せてくれますからね。陰謀を調べていて、2つの法則を発見したんです。これを知っていると便利ですよ。「すべてはつながっている」と「すべては今である」。歴史上様々な陰謀説が唱えられましたが、そのすべては結びつけられ、全体で網状の組織になっていると陰謀説を信じている人(陰謀論者)は見なすんですね。ユダヤ人、フリーメイソン、CIA、宇宙人などの陰謀論はより合わされ、陰謀論者は自由に組み合わせて自説を繰り出すことができる。それが「すべてはつながっている」。「すべては今である」は、ある陰謀説の起源が何万前のものであろうと、その血脈はそのまま受け継がれ、今、ここに生き続けていると陰謀論者は考えるわけです。

 しかし冷静に考えてみると、大昔に計画された陰謀や怨念や恨みがそのまま今に生き続けている可能性はどれぐらいあるんでしょうね。たとえばロスチャイルドが世界を支配しているという話ですが、ロスチャイルド家が何代にもわたって、親が子供に自分と同じことをさせるというのはいかに難しいか。ふつうに考えればわかるわけですよ。何代にもわたって同じことを続けるというのがどれだけ大変か。この2つの法則を重ねると、「すべてのものは今につながっている」ということになる。世界中のあらゆることは、今につながり、今を説明していることになるんですね。陰謀論者は、何百年前にロスチャイルド家の最初の人が決めた通りに今でもやっていると信じている。それからあらゆるものがつながっていて、今でも有効であると思ってしまう。
今の世界は謎に満ちている。その謎を何とか説明できる理論がほしい。そのような状況が続く限り、陰謀説は必要とされ、なくなることはないと思います。

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