ゴミ屋敷で孤独死した漫画家が残した遺作『生ポのポエムさん』が訴えた生々しいフリーランスの現実
閑話休題。清掃をはじめて1時間が経過した。2人がかりで汗をかきながら探し回っても見つからなかった。
その後の予定もあるので諦めて部屋を後にしようと話していたその時、過去の原稿が大量に詰め込まれたゴミ袋の中から『生ポのポエムさん』の第1回原稿と新連載のためのネタ帳ノートが見つかった。
「運命的なものを感じましたね。僕は神や仏のたぐいは信じないんですけど、この時ばかりはナニかが原稿に導いてくれたのかなと思いました」
原稿の出来は正直、全盛期からは程遠かった。病気の影響か、ところどころ激しくデッサンが狂っていた。内容も50代の漫画家が貧困と病気に耐えかねて、練馬区役所の福祉事務所に行き生活保護の手続きをする…それだけの話である。
それでも、原稿はT氏にえもいわれぬ印象を残したという。
「実は原稿が上がる前に一旦ネーム(下書き)を見せてもらったんですが、ただの身辺雑記で面白くなかったんです。吠夢先生の『想い』をしっかり込めたほうがいいですよ、とアドバイスしました。実際に出来上がった原稿は、心にズシンとくるものでした。なんか鬼気迫る迫力がありましたね」
T氏は遺稿を前に考えた。これをどうすればいいか。先述の「しのぶ会」の参加者には、「世に出したほうがいい」と言う人もいた。でも出版社との約束では4話完成時点の配信だった。1話ではあまりに短い。
「とりあえず原稿を出版社の編集者に読んでもらいました。確かに物語のプロローグでしかないし、ページ数もたった20ページしかありません。でも、出版社の方もこの原稿を読んで、生きざまを感じ取ったようです。吠夢先生のご両親の承諾も得て、電子書籍として配信されることになりました。ページの足りない部分は『ネタ帳ノート』から抜粋しました。本当だったらこの『ネタ帳』のネタを元に連載は続いていたんだと思います」
こうして吠夢氏の遺作『生ポのポエムさん』が電子書籍で配信された。
この作品は、生涯売れなかった漫画家が、練馬のゴミ屋敷の中でコツコツと描いた作品だ。そして吠夢氏はこの作品を描きあげた後に亡くなった。
孤独な最後を向かえた吠夢氏だが、それでも一生漫画家でありつづけることができたのは幸せだったのかもしれない。フリーランスの作家や、これからフリーランスを目指す人達には一度読んでもらいたい作品だと思った。
(文・村田らむ)
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