ベトナム戦争最大かつ最凶の残酷社会実験「10万人計画」とは ― 死亡率3倍、弱者兵士を前線へ
■「10万人計画」の人々のその後
米国国防総省は、1971年に「10万人計画」を段階的に廃止した。
数十年後に収集された情報では、このプロジェクトに参加した兵士の除隊後の生活は「民間人よりも良くないか、さらに悪い」ことが明らかになった。彼らは現在の貨幣価値でいえば、一般の除隊した兵士より年間183万円ほど収入が低く、離婚する可能性が高く、自営業を始める可能性は低かった。
これらの違いについて、その理由は完全には明らかになっていない。確かにそれらしい理由はいろいろ考えられる。戦争のトラウマ、軍に居たために利用できなかった社会プログラムの参加機会の欠如、または軍に行かなければ完了する可能性のあった高等学校、大学などの教育機会の消失――このように説明だけはいくらでも提供できるだろう。しかしこれらはすなわち、「10万人計画」が完全に失敗であったことを示している。
ロバート・マクナマラ国務長官の回顧録『ベトナムの悲劇と教訓』(日本語版、共同通信社)は、ベトナム戦争に加わった中尉のハーブ・デボース氏の言葉を引用している。彼は「10万人計画」を以下のように語った。
「マクナマラ長官は戦争後に世界銀行総裁を務め、世界の貧しい子どもたちを見ては涙を流した。しかし、彼が『10万人計画』に参加した男性のために涙を流していないのなら、彼は本当の涙の意味を知らない」デボース氏はこう言って彼ら兵士を憐れむ。
「私の下の兵士の多くは小学5年生レベルでさえなかった。彼らは字を読めなかった。そして彼ら『10万人計画』の兵士は、入隊前も除隊後も変わらず、何の技能も持てなかった。しかし入隊すれば、軍でいろいろなことが学べ、より良い生活が送れると彼らに約束していたのだ」と苦々しく語った。
戦争中は各国で、さまざまな非人道的な“実験”が行われていたことが、後になって明るみに出ている。この米国の「10万人計画」は、国が、本来戦地に行くべきでない人々を使ってみたひとつの実験だったのだ。このような非道が許されるのが戦争だと言うのなら、やはり再び起こらないよう努めるべきだ。
(文=三橋ココ)
参考:「Big Think」、「BlackPast.org」ほか
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