日本人なら知っておきたい「インスリンを広めた天才たちの悲劇」 ― 命を賭けて糖尿病患者を救った三井二郎左衛門、福屋三郎
■後日談
終戦後、焼け野原になった静岡で、生き残ったインスリン研究室の助手だった加藤重二は、二又川組という土建会社の協力を得てわずか40坪の平屋建ての小さな小屋を建ててもらいました。終戦直後のあらゆる物資が枯渇していたはずの時代ですが、二又川組の棟梁は「たまたま材木が余ってたんだ」と語ったといいます。
旧制中学校卒(現在の高卒)の助手に過ぎなかった加藤重二は、福屋と共に研究に励んだ5年足らずの短い時を思い出し、女子従業員と共に手作業で魚のハラワタを処理してインスリンの生産を再開しました。
終戦後、清水製薬は出資者であった武田薬品と三菱財閥から、出資金と全ての債務を放棄する代わりに廃業するよう勧告を受けました。しかし、清水食品の支援により会社は辛うじて存続します。
極わずかではありましたが、終戦直後から生産を再開して、再び魚のインスリンが販売されることになりました。加藤は福屋の意思を継いで、清水製薬でインスリンの生産を続け多くの糖尿病患者にインスリンを届けたのです。
今ではインスリンの生産方式そのものが変わり、魚のインスリンは生産されなくなったのですが、福屋三郎の残したインスリンへの思いは今も受け継がれています。
命は平等であり薬は一部の金持だけの物ではない、薬に貴賎なし「世界一の高貴薬」など存在してはなりません。
2018年現在、日本で糖尿病にかかる医療費は高い場合でも月額3万6580円(自己負担額約1万1千円)、1年間の自己負担額約13万2千円にまで抑えられています。安いとは言えませんが、庶民の収入の3倍以上にもなる医療費を払えなければ死ねということはなくなりました。
もう、誰もインスリンのことを世界一の高貴薬などと呼ぶ人間は居ません。
参考:「清水製薬五十年史」ほか
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