物体浮遊、生きた霊体と面会、天理教… 文豪・芹沢光治良をオカルトにハマらせた“3つの出逢い”とは!?

物体浮遊、生きた霊体と面会、天理教… 文豪・芹沢光治良をオカルトにハマらせた3つの出逢いとは!?の画像3天理教の教会本部 画像は、「Wikipedia」より引用

■天理教に苦しめられた幼少期

 芹沢光治良は1896年(明治29年)、静岡県駿東郡楊原村大字我入道(現在の沼津市我入道)に、父・常蔵(後に常晴と改名)、母・はるの次男として生まれた。

 生家は代々の網元であったが、天理教に入信した父が全財産を捨てて宣教生活に入り、母もそれに従って家を出た。その際、この夫婦は、3人の男児のうち芹沢だけを祖父母のもとに残して出て行ったのだ。このことは、幼い芹沢の胸に「両親に捨てられた」という苦い思いを強く刻み込んだ。

 祖父母もまた天理教信者ではあったが、父が全財産を教団に寄進してしまったため生活は困窮を極めた。こうして芹沢は、幼い頃から天理教の信仰の中で育ちながらも、人々を幸せにするはずの宗教が貧しい漁民から浄財をかすめ取り、塗炭の苦しみを与えていることに激しい憤りを感じるようになった。教団としての天理教に対する反発は、芹沢の生涯を通じて貫かれ、このことは芹沢の数々の作品の中に描かれている。

 貧困のため、芹沢自身の中学進学も危ぶまれたが、幸いにも親戚の知り合いであり、当時は面識もなかった仁藤金作海軍兵曹長から支援を受け、県立沼津中学校に通うことができた。中学卒業後も一高に進むための学費が危ぶまれ、1年間沼津町立男子小学校の代用教員を務め、1916年(大正5年)、なんとか芹沢は一高に入学できた。そして、この一高時代、霊的世界に関わる2人との出会いがあった。


■井出国子との信頼関係

物体浮遊、生きた霊体と面会、天理教… 文豪・芹沢光治良をオカルトにハマらせた3つの出逢いとは!?の画像4井出国子 画像は、「Wikipedia」より引用

 最初の人物は、井出国子(またはクニ)である。井出国子(1863~1947)は、1908年(明治41年)まで普通の主婦であったが、この年に突然“神がかり”を経験する。この経歴は、天理教の教祖・中山みきにも通じるものがある。さらに国子に降りた神は、中山みきに降りたのと同じ親神、すなわち天理王命と名乗った。これが正しいとすると国子は、中山みきの後継者として神に選ばれたということになる。

 それを自覚した国子は1916年(大正5年)、中山みき没後三十年祭において、存命の中山みき(肉体はないが、まだ生きている状態)本人に依頼されて天理教本部に参拝し、教祖殿の前で教えを広めようとするが、本部員2名によって引きずり出された。つまり、教団としての天理教は、国子の存在そのものを否定したのだ。

 しかし国子は、中山みきの曾孫にあたる福井勘次郎の庇護を得て、兵庫県三木町高木村に住んで病気治しなどを行いながら、自らの教えを広め始めた。彼女の信者からは「天理教二代目教祖」とか「播州のおやさま」などと呼ばれていた。

物体浮遊、生きた霊体と面会、天理教… 文豪・芹沢光治良をオカルトにハマらせた3つの出逢いとは!?の画像5完全版 人間の運命〈1〉』(勉誠出版)

 芹沢の自伝的小説『人間の運命』では、主人公の森次郎が祖母とともに井出国子を訪ねたのは、一高2年の夏休みというから、1918年(大正7年)ということになる。しかし実際には、芹沢は、とある信者に連れられて1916年(大正5年)に井出国子を訪ね、国子によって胃弱と肋膜炎の治療を受けている。

 そして、『人間の運命』で述べる突き放した記述とは異なり、その後の芹沢は何かにつけて国子の助言を仰ぐようになり、親密な関係を築いていった。その証拠に1925年(大正14年)、芹沢夫妻がフランスに出発する際の写真では、親戚縁者に混じって国子も見送りに訪れたことが確認できる。フランスからの帰国後も、芹沢の義父・藍川清成の運転手が国子に脚の治療を受けたのを皮切りに、藍川本人や芹沢の妻・金江、さらには芹沢の弟などが国子の治療を受けて快癒している。

 1940年(昭和15年)、国子は外務省顧問の白鳥敏夫に対して「アメリカと戦争してはいけない、戦争を仕掛けたら負ける」などの予言を行ったが、この会見も芹沢の自宅で行われている。

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