「M資金」という都市伝説が人々を70年以上も騙し続ける理由とは? 豆腐屋、占領軍、元ローソン会長も… サンデー毎日編集長が解説!

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【ローソンのカリスマ会長まで毒牙に…】

 そもそもM資金とは何か。終戦直後、米軍が旧日本軍あるいは皇室の巨額資産を接収、その一部が秘密の復興資金としてプールされ、無担保、低金利で融資される、というのが典型的なM資金話のパターンとされる。ちなみにMについてはGHQ(連合国軍総司令部)の経済科学局長のマーカット少将、あるいはマッカーサー元帥の頭文字とも、MSA協定(1954年に日米間で結ばれた相互防衛援助、経済措置などに関する協定)を指したものとも言われている。

 話がわき道にそれることをお許しいただきたい。ポール中岡という男がいた。やはり、私が事業再生資金の一件を書いてから間もない頃に、「M資金を知っている」という連絡があり会った。住んでいたのは下町の安普請のアパートだった。まさか――と思いながらも出向いたのは、「ポール中岡」という名前が私の耳に引っかかったからだ。

 もしかして――と問うと、あっさり認めた。

 日本初のハイジャック事件から2年後の1972年(昭和47)11月、羽田発福岡行きボーイング727型機が乗っ取られる事件があった。米国行きを要求したが、727型機は中距離旅客機である。すったもんだの挙げ句、逮捕された。当時47歳。凶悪事件を起こすにはとうが立っていた。懲役20年の実刑を食らっていた。

「北米に別れた家族がいて、パラシュートで降下しようと思ったんだ」

 禿頭の好々爺然とした小男はそう言った。いかにも日系二世の名前だったが、れっきとした日本人である。元特攻兵。自分の青春を奪った日本に復讐しようと誓い、英語を必死に勉強して二世になりすましたと話した。

 その経緯はそれだけで別の原稿になってしまうほどの興味深い内容だったが、中岡は「M資金は『MOVIE』の『M』であり、占領軍が映画制作の資金名目で日本に提供したカネだ」と説明した。「自分が決済人で、日本の名だたる企業の育成に使われた。原資はユダヤ・マネー――ロスチャイルドのカネだ」とも。

 ことほどさように、語る者によってその内容は異なるのもM資金の特徴だ。ただ一点、共通項があるとすれば、いとも簡単に何百億、何千億、時には豆腐屋が1丁、2丁と数えるように、何兆円という単位のカネの話をする。M資金ブローカーが「豆腐屋」と呼ばれるゆえんだ。

 そんな話に騙される経営者が今時いるのかと思ってしまうが、前述のように「事業再生資金」はいまも生き続けている。『週刊新潮』2017年4月27日号によれば、大手コンビニエンスストア、ローソン会長(当時)の玉塚元一氏も騙された口のようだ。ブローカーに差し出した確約書のコピーが出回り、会長職の退任に追い込まれたという。確約書にはこう書かれていた。

〈この資金をお受けします。宜しくお願い致します〉

 社名の入った便せんに、名刺が張られ、ごていねいに割り印が4カ所押されている。

 差し出した先はM資金ブローカーだったという。「資金」というのは、事業再生資金の類いだ。

 名誉も地位もあるのに、どうしてかと首をかしげてしまう。同誌は〈5兆円でローソン乗っ取り?〉などという説を紹介した。一時はカリスマ経営者ともてはやされた玉塚氏だが、雇われ経営者にすぎない。オーナーへの野心があったということだろうか。

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 確約書のコピーが出回り、新潮誌の報道から間もない同年5月末に、会長職を辞めた。会長就任から1年足らずのことだった。株主から経営者としてふさわしくないと判断されたであろうことは想像するにかたくない。玉塚氏は同誌の取材に〈甘かったと言われればその通りです〉と答えたという。

 別表をご覧いただきたい(『昭和・平成オカルト研究読本』に掲載)。過去に報じられた記事をもとに主立ったM資金事件とみられる事案を表にしたものだが、全日空や、いま注目の日産の経営陣まで引っかかっている。玉塚氏も含めて、高学歴を誇り、生き馬の目を抜くようなビジネス界の経験を積んだ経営者である。なぜ、ころりと騙されてしまうのか。もっともらしく見せるための「小道具」の力も大きい。

 M資金という言葉が使われるようになったのは、1950年代とされる。冷戦時代を象徴してか、もともとは共産主義の脅威から日本を守るための運動資金として提供する、という話だったという。まだそれほど大仕掛けではなく、「反共運動資金」という内容に牧歌的な感じすらする。

 しかし、高度成長時代を迎えると、新たに登場したのが「国債還付金残高確認証」なるものを使った新たな手口である。建設国債などが相次いで発行された時代を反映したのであろうか、持ち歩く連中はこんなふうに会社の経営者らに近づいたという。

「政府は戦後間もなく、復興資金として秘密裏に大量の国債を発行した。この確認証をしかるべきところに持ち込めば、同額の国債と引き替えるてはずになっている。ただし、国債の還付には手数料と印紙代が必要だ」

 確認証は100億円から5000億円までの6種類あり、その発行を裏付けるような当時の大蔵大臣らの公印の押された書類まで出回った。一連の書類を偽造したとされる女性詐欺師を中心とするグループが1984年(昭和59)に摘発された。騙し取ったカネは数十億円に達するとも言われ、当時としては空前のM資金詐欺事件となった。

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