ーー時間をずらして同じ人を、定点観測的に撮影していますね。
野口 時間の流れや環境の変化を捉えられることは写真の特性ですよね。「時間」や「記録」は僕にとって重要なファクターなんです。
◾︎「個」として対峙し、野宿者を撮る
ーー野宿者とその生活の場である小屋とその周辺を1つのイメージとして撮影しています。このスタイルに至った理由を教えてください。
野口 20代前半にはストリートスナップを撮ったり、フィルムやデジタル、モノクロやカラー、その他にさまざまなギミックも試していました。自分の写真の鉱脈を見つけたいという意識で色々と実験をしていたんです。当初から自分は「外に出て、足で稼いで、身体で撮る」ようなタイプの写真家だと思っていました。その頃、他のフォトグラファーが撮った路上生活者の写真には、コントラストの高いモノクロで荒々しいものがすごく多かったんです。しかも、隠し撮り的に撮られていました。そこに疑問があって。
ーーなるほど。
野口 僕自身は彼らの生活や生き方、死生観も含めて興味を持っていたので、もっと人間そのもの、個として彼らと対峙したいという思いがありました。自分にとってニュートラルでシンプル、かつ、飽きない撮影方法は何なのかを撮りながら考えるなかで、現在の撮り方にすっと入っていった感じです。
ーー文化人類学のリサーチャー的な観点というか、ある種の標本のように撮ったというか、野宿者個人と生活環境をそのまま切り取っていますね。写った環境から庵主たちそれぞれの人生の物語を読み取ることもできるような。一方で、被写体へのシンパシーが感じられるようにも見えました。
野口 そうですね。でも、今、僕は彼らのような生活をしていません。その部分から、あくまで他者だという意識があります。彼らに「寄り添おう」とか、そういう上から目線は全くありません。むしろそういうような言いかた、スタンスをとることはマズいという思いがあります。このことは、人を撮るうえですごく気をつけなければならないセンシティブな問題ですよね。