邪悪で野蛮な“No.1暴走老人”映画『すべてが変わった日』が本気でヤバすぎる! ダイアン・レインとケビン・コスナーの狂気が炸裂!


 “56歳ダイアン・レインと66歳のケビン・コスナーの二大俳優が共演した西部劇で、ある日息子を亡くした夫婦のその後を描いた映画”です。

 こんな映画の紹介をされたら誰でも「うっ、渋そう……」となるだろう。筆者もそうだった。大人の、というか初老の名優2人の成熟した演技を雄大な景色とともに楽しむ映画ですよね、と。邦題の『すべてが変わった日』は息子が死んだ日を指していて、悲しく空虚な生活を渋い2人が演じきる映画ですよね……と。

 だが、全然違った!!!!! 

(あえて、役者名のまま物語を紹介する)

1960年代のモンタナ州。気品と気骨を兼ね備えた妻のダイアン・レインと、元警察官で無口で武骨なケビン・コスナーは、この映画のメインターゲットである団塊世代の誰もが納得する“古き良き夫婦”だ。そんな二人が営む牧場で、息子を落馬事故で亡くすところから話はスタートする。

 夫婦は息子を亡くした悲しみを心に抱えつつも、激しく動揺することもなく、溺愛する孫をかわいがり、少し折り合いの悪い義理の娘との生活を淡々と続ける。

 時は流れ、まだ若い義理の娘が再婚すると、孫を連れて新しい夫と新居に引っ越すことが決まってしまう。これまで冷静だったダイアン・レインとケビン・コスナーも、息子を亡くした上に孫とも暮らせなくなったことで、さすがに寂しさがこみ上げる。

 そんなある日、ダイアン・レインは駐車場で義理の娘と孫が再婚相手に叩かれているところを目撃。暴力的な再婚相手から孫を引き離さねばならないと直感する。日を改め、孫を引き取ろうと新婚宅に行くダイアン・レインだが、なんと義理娘一家は挨拶もせずにどこかへ引っ越してしまっていたのだ。


 ここでダイアン・レインのスイッチが入る。絶対に孫の居場所を突き止め、取り返す……と。その決意は固く、夫であるケビン・コスナーも妻の暴走を止めることはできない。やれやれ、と思いつつも、絶対に自分の信念を曲げない妻を愛おしそうに見るケビン・コスナーの演技が素晴らしい。

 ここからはロードムービーさながら、雄大な景色と共に、約1000キロ先の再婚相手の実家があるノースダコタへと夫婦ふたりの車旅が始まる。ほのぼのとした心地のよい音楽が流れ、まるでアメリカ版「北の国から」のような雰囲気だ。旅の途中、“土地を奪われた”ネイティブ・アメリカンの少年に出会い、“孫を奪われた”夫婦との思いがけない交流もあった。やり取りの中で、悲しみ、家庭内暴力、子供の親権問題、先住民の問題など、この物語の根底に流れる“アメリカの重い記憶”が浮かび上がってくる。

 そして、やっとのこと辿り着いた再婚相手の実家だったが、この日こそ、邦題の「すべてが変わった日」なのかもしれない。

 なんとその再婚相手の家は、映画『悪魔のいけにえ』に出てくる食人一家並みの邪悪さを兼ね備えた“狂気の暴力一家”だったのだ! アメリカの侵略と征服の歴史が生み落とした悪魔のような母と、それに従う「脳みそまで筋肉」系の脳筋息子たち。上品だけども少し疲れた感じのダイアン・レインとケビン・コスナーがこんな一家に勝てるはずがないのは一目瞭然なのだが、ここでダイアン・レインの勇気がさく裂、決死の覚悟で相手に挑んでゆく……。

 ここからの展開はネタバレになってしまうので書けないが、まったくもって想像を超えるシーンの連続。とにかく野蛮よ! こんなに展開の読めない映画は過去イチかもしれない。初老2人がここまでハラハラさせてくれるとは誰も期待しないだろう。あまりにも不測の事態が続くため、西部劇スリラーというより、もはやシュールレアリスムの域に達している。

 ダイアン・レインとケビン・コスナーという落ち着いた大人のイメージからは程遠い、危険と衝撃が入り混じったパワフルな本作は、初老映画というジャンルに間違いなく新しい風を吹かせている。ぜひ団塊世代だけでなく若者にも見ていただきたい。

あらすじ
1963年、モンタナ州の牧場。元保安官のジョージ・ブラックリッジと妻のマーガレットは、落馬の事故で息子のジェームズを失う。3年後、未亡人として幼い息子のジミーを育てていた義理の娘のローナが、ドニー・ウィーボーイと再婚。暴力的なドニーがローナとジミーを連れてノースダコタ州の実家に引っ越したと知ったマーガレットは、義理の娘と孫を取り戻すことを決意する。しかしジョージとマーガレットを待ち受けていたのは、暴力と支配欲ですべてを仕切る異様な女家長、ブランチ・ウィーボーイだった……。

キャスト
ダイアン・レイン、ケビン・コスナー
ケイリー・カーター、レスリー・マンヴィル、ウィル・ブリテン、ジェフリー・ドノヴァン、ブーブー・スチュワート

監督・脚本
トーマス・ベズーチャ
配給:パルコ ユニバーサル映画
公式HP:https://subetegakawattahi.com/
公式FB:https://www.facebook.com/subetegakawattahi/
公式ツイッター:https://twitter.com/subetegakawatta
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8月6日(金)TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほかにて全国ロードショー

文=角由紀子

TOCANA元編集長
Twitter:@sumichel0903

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