リュウグウノツカイと地震の関係は本当か? 地震と関連付けられる理由を解説

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画像は「Getty Images」より

 地震大国である日本に住む私たちにとって、日曜劇場「日本沈没―希望のひと―」(TBS系)が描く巨大地震はあまりにもリアルだ。ちょうど先月、震度5強の地震が関東を襲い、首都圏はパニックに陥った。12月までに関東大震災クラスの巨大地震が発生する恐れがあると警告する専門家もいるほどだ。

 台風、洪水、噴火など自然災害は多くあるが、地震の怖いところは予測が非常に困難であるという点だ。台風や洪水であればかなりの精度で事前にその発生や進路を予測し、危険が迫る前に避難することができる。噴火も顕著なものであれば、前兆活動などから事前にある程度は予知できる。しかし地震予測に関しては、どんな大地震であってもその発生時期と場所を高い精度で事前に予知することは現時点では不可能とされている。

 とはいえ、地震にも前兆現象があることは古くから言い伝えられてきた。それらは「宏観異常現象」と言われ、ナマズに代表されるような動物の異常行動、地震雲などの気象異常、水位変動や電磁波異常など多岐に渡る。なかでも日本で最も有名な宏観異常現象はリュウグウノツカイの出現だろう。深海魚であるリュウグウノツカイが浅瀬に現れ、漁の網にかかったり、浜辺に打ち上げられたりすると、地震の前兆だとしてニュースになるほどだ。

 だが、本当にリュウグウノツカイの出現は地震の前兆現象なのだろうか?

■リュウグウノツカイとは

 リュウグウノツカイ(竜宮の使い)は、アカマンボウ目リュウグウノツカイ科に属する魚類の一種であり、全長3 mほどの巨大深海魚である。色鮮やかな神秘的な姿から、西洋諸国では未確認生物シーサーペント(海洋大蛇)伝説、日本では人魚伝説の元ネタになっていると考えられている。かつてヨーロッパでは「ニシンの王 (King of Herrings)」とも呼ばれ、その出現は漁の成否を占う前兆と位置付けられるなど、その出現率の低さから占いに用いられることもある。

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2019年に豊岡市の沖合で捕獲されたリュウグウノツカイ(サンテレビのYouTubeチャンネル

■リュウグウノツカイと地震

 ところで、日本ではなぜリュウグウノツカイが地震と関係付けられるようになったのか? 物珍しい生物であり、しかも“竜宮の使い”というめでたい名称を持つならば、その出現は吉兆や幸運の前触れと捉えられてもおかしくないではないか。竜宮にたどり着いた者が宝物を授与されるという伝説は日本各地にある。

 リュウグウノツカイの出現が地震の前兆と考えられるようになったのは、江戸時代中期1743年に出版された『諸国里人談(しょこくりじんだん)』にリュウグウノツカイを想起させる記述があったからだ。それによると、「鶏冠(とさか)のごとくひらひらと赤きもの」を身につけた人魚を漁師が櫂(かい)で殴り殺してしまったところ、30日後に大地震が起こったという。

 『古今著聞集』などの古文献に登場する人魚は、共通して白い肌と赤い髪を備えると描写されているが、『諸国里人談』の記述もそれを踏襲している。これは銀白色の体と赤く長い鰭を持つリュウグウノツカイの特徴と一致しているのだ。

 文献には残っていないが、おそらく江戸時代中期以前から、人々はリュウグウノツカイなどの深海魚の出現と地震の発生を関係付けていたからこそ、『諸国里人談』のような話が書かれたのだろう。つまり長い年月の中でリュウグウノツカイが現れると地震が発生するという経験則を人々は学んでいた。

■実際はどうなのか

 だが、その経験則は本当に正しいのだろうか? 人は物珍しい特別なことが起こると相関関係のない出来事を結びつけてしまう認知バイアスに陥る。多くの場合、経験則は信頼できるソースではない。

 ありがたいことに、リュウグウノツカイの出現と地震発生を統計学的に調査した研究が存在する。東海大学海洋研究所と静岡県立大学の研究グループが2019年6月18日(火)付のアメリカ地震学会誌『Bulletin of the Seismological Society of America』に掲載した論文がそれだ。

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サケガシラ(Wikipedia

 研究チームは「リュウグウノツカイ」や「サケガシラ」など地震前兆の深海魚と言われている8魚種に絞って漂着・捕獲の事例を収集するという骨の折れる作業を敢行。調査を行った東海大学海洋研究所の特任准教授、織原義明さんによると、深海魚の出現に関するデータベースのようなものは存在しないため、ネット上で深海魚の出現の話を拾い集め、その裏取りとして国立国会図書館で新聞記事の検索を行ったというから、その苦労に頭が下がる。その結果、1928年11月26日から2011年3月11日までに336件の漂着や捕獲の事例を確認したという。そして、それぞれの深海魚出現日から30日後までに、出現場所から半径100km以内に発生した「マグニチュード(M)6.0以上」の地震を調べた。

 その結果は驚くべきものだった。深海魚出現後に地震があったケースは2007年7月16日の新潟県中越沖地震(M6.8)のみだったのだ! 研究チームはこの調査結果から、「深海魚出現は地震の前触れ」という伝承は迷信と考えられると結論づけた。これについて織原義明さんは「期待外れだった」と率直な感想を述べている。

■トカナ的見解

 リュウグウノツカイの出現は地震とは関係ない、それが科学的な事実である。だが、動物の異常行動の全てが地震発生と無関係だとは言い切れない。2020年に独マックス・プランク動物行動研究所とコンスタンツ大学の研究者が動物の異常行動と地震発生に相関関係があるとする研究を発表している。研究者らは地震が多発するイタリアの農場で、牛6頭、羊5頭、犬2頭の首輪に加速度計を取り付け、数カ月にわたって、その行動を記録。その間、農場のある地域では約18000回の地震が発生し、うち12回はマグニチュード4以上だった。

 ここから統計的に有意な地震を選出し、動物の行動と慎重に照らし合わせた結果、地震発生の20時間前までに動物たちが異常行動していることが分かったという。研究チームのウィケルスキ氏によると、「動物が震源地に近いほど、より早く行動が変化した。地震発生直前の震源地で物理的な変化が頻繁に起こり、距離が離れるほど弱くなるという予想通りの結果だった」という。そのことを強く示す興味深い現象もあった。動物たちに取り付けられている装置は3分毎に行動を記録しているが、45分以上動物の活動が著しく活発化した場合には、警告音が鳴る仕組みになっていた。そして、1度だけその警告音が鳴ったことがあり、それから約3時間後に小さな地震が起こったという。しかも、震源地は動物たちの小屋の真下だったのだ。

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画像は「Getty Images」より

 こうした異常行動のパターンは動物たちをグループとして扱った時には見えるものの、個別に動物の行動を見ているだけでは分かりづらく、確定した結論を出すためには、世界中の異なる地震帯で、より多くの動物をより長い時間にわたって観察する必要があるとしている。また、動物が異常行動を起こす理由も分かっておらず、岩盤の圧力によって空気がイオン化し、それを動物たちが毛皮に感じ取っているという説や、水晶振動子により発生するガスを感知しているという説があるが、どれも立証されていない。

 だが、いずれにしろ、動物の異常行動が地震発生の前兆になっているという人々の感覚は当たっている可能性がある。リュウグウノツカイ一匹の行動は地震に関係ないかもしれないが、もし大きなグループのリュウグウノツカイの行動を監視できる実験デザインがあれば、彼らの行動が地震の発生と相関していることが分かるかもしれない。リュウグウノツカイに限らず、世界中のあらゆる動物の行動を集積したビッグデータが利用できるようになれば、個々の事例からは見えなかった関係性が見えるようになるかもしれない。今後の研究に期待したいところだが、地震は研究結果を待ってはくれない。日頃からの備えが何よりも大切だ。リュウグウノツカイ出現のニュースに恐怖する必要はないが、防災への意識を高める良い機会だと思って、今一度、地震対策を考えてみてはいかがだろうか。

TOCANA編集部

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