病弱な娘が献身的な母親を殺害… 「奇跡の親子」に隠された驚愕の真実とは?

 3月27、28日(深夜0時25分)から2夜連続スペシャルドラマ「アイゾウ 警視庁・心理分析捜査班」(フジテレビ)が放送される。28日に放送される「奇跡の親子」のモチーフになったのは、2015年にアメリカ・ミズーリ州で起こった「ディーディー・ブランチャード殺人事件」。その背景には“代理ミュンヒハウゼン症候群”という精神疾患があった。

ジプシー・ローズ・ブランチャードと母ディー・ディー

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ジプシーとディー・ディー(画像は「Biography」より」)

 1991年、ディー・ディー・ブランチャードは、娘のジプシー・ローズを出産した。ディー・ディーの異常は早くもジプシーが生後3カ月の頃から始まる。ディー・ディーは娘が睡眠時無呼吸症候群があると主張。病院ではなんの異常も見られなかったが、その妄執を止めることはできなかった。

 ジプシーが8歳になると、ディー・ディーは彼女が白血病と筋ジストロフィーに苦しんでいると言い出し、車椅子と栄養チューブが必要であると主張。さらに、発作、喘息、聴覚・視覚障害などの医学的問題を抱えていると頑なに信じるようになった。

 これによりジプシーは多くの薬を処方され、呼吸器を使って眠らなければならなくなった。目の手術や唾液腺の摘出など、不要な手術を何度も受けさせられた。ジプシーの歯は、薬の影響か、唾液腺がないためか、放置されたせいかはわからないが、腐るたびに抜かれた。

 実際のところ、ジプシーは自力で歩行することができ、栄養チューブも必要なく、癌でもないというのが真実だった。彼女の頭が禿げていたのは、母親が髪を剃り落としたからだった。

 専門家は、ディー・ディーが代理ミュンヒハウゼン症候群(Munchausen syndrome by proxy)と呼ばれる精神疾患を患っていたと考えている。

代理によるミュンヒハウゼン症候群
子どもに病気を作り、かいがいしく面倒をみることにより自らの心の安定をはかる、子どもの虐待における特殊型です。加害者は母親が多く、医師がその子どもに様々な検査や治療が必要であると誤診するような、巧妙な虚偽や症状を捏造します。(「日本小児科学会」より)

 周りの人の目には、ディー・ディーは魅力的で献身的な母親に映った。また、彼女は娘の病気に疑問を持つ医師には会わないよう注意し、さらに彼女自身が看護師の訓練を受けていたので、症状を正確に説明することができたこともあり、周囲に親子の異変に気付く人はなかなかいなかった。

 ディー・ディーはジプシーの父親であるロッド・ブランチャードにも娘が染色体異常であり、それが原因で多くの健康問題を抱えていると話していた。ロッドは彼女の話を信じ、献身的なケアに賛辞を送っていたほどだ。

 ディー・ディーは2005年にはハリケーン・カトリーナの被害者であることを主張し、ルイジアナ州からミズーリ州への移住を支援されたが、それが医療ファイルの紛失の口実にもなった。それだけでなく、重度の障害を持つ娘をハリケーンから守った母親としてメディアの注目も浴び、寄付金も受け取った。

 2008年、ジプシーとディー・ディーは、ミズーリ州スプリングフィールドの新しい家に引っ越した。ハビタット・フォー・ヒューマニティが建てたこの家は、ピンク色に塗られ、車いす用のスロープも付いていた。また、ジプシーとディー・ディーは、チャリティーでコンサートやディズニーワールドを訪れるなどの特典を受けた。

 ジプシーが14歳のとき、ミズーリ州の神経科医は、彼女が代理ミュンヒハウゼン症候群の被害者であると考えるようになった。しかし、この医師は、そのことを当局に報告しなかった。後のインタビューで、彼は「行動するのに十分な証拠がない」と語っている。

 2009年、ディー・ディーの語るジプシーの病気には医学的根拠がないとする匿名の通報が当局に寄せられた。その結果、2人のケースワーカーが自宅を訪れることになったが、ディー・ディーは「異常はない」と説得した。

 ジプシーが大きくなるにつれ、ディー・ディーは彼女の年齢を偽るようになり、ジプシーの出生証明書の日付まで変えた。だが、ジプシーはディー・ディーの影響から抜け出そうとしていた。

 2011年、ジプシーは母親から離れようと、SFコンベンションで知り合った男性と一緒に逃げようとしたが、共通の友人を通じて2人の行方が突き止められた。ディー・ディーは、当時19歳だったジプシーが未成年であることを男性に信じ込ませ、ジプシーを連れ帰った。帰宅後、ディー・ディーは彼女のパソコンを壊し、ベッドに体を拘束したという。また、ときどき彼女を殴り、食事を与えなかったとも。

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ジプシーとディー・ディー(画像は「Biography」より」)

 その後、ジプシーはキリスト教の出会い系サイトに参加。そこでニコラス・ゴデジョンに出会った。彼女は彼に母親の行動について話し、一緒にいられるようにディー・ディーを殺してほしいと頼んだ。2015年6月、ニコラスは彼女の家にやってきて、ジプシーがバスルームで耳を塞いで待っている間にディー・ディーを刺した。

 ジプシーとニコラスは、ウィスコンシン州の自宅へ戻り、そこで警察に発見された。その間、ジプシーは母親と共有していたフェイスブックのアカウントに2回投稿しており、一度は 「クソ女は死んだ」と書き込んでいた。彼女は後に母の遺体が発見されることを望んで投稿したと説明している。

 ジプシーの医療記録には、彼女が受けた虐待について記録されていたため、彼女の弁護士は、司法取引をすることができた。2016年、ジプシーは第2級殺人の罪を認め、懲役10年を言い渡された、2024年から仮釈放が可能となる。ニコラスは2018年に第一級殺人罪で有罪になり、終身刑が言い渡された。

 ジプシーが母の欺瞞の大きさに気づいたのは、彼女の死後だったと述べている。ジプシーは、自分が歩けること、普通の食べ物を食べられることを知っていながら、自分が白血病だと信じていたというのだ。

 服役中のジプシーは、ディー・ディーとの生活よりも、刑務所のほうが自由を満喫していると語っている。しかし、母親を殺したことについて、”あの状況から解放されたことはうれしいが、母親が死んだことはうれしくない “と話しているという。

参考:「Biography」ほか

文=S・マスカラス(TOCANA編集部)

3代目TOCANA編集長
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