UFO史を紐解くーケネス・アーノルド事件以前の目撃例(1) 鎌倉幕府、うつろ舟、アレクサンドロス大王

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画像は「Getty Images」より

ケネス・アーノルドの目撃により、世界は、なにか得体の知れない物体が地球の空を飛んでいるという事実を認識した。アーノルドは防火機器会社を経営する名士であり、社会的にも信用できる人物であった上、熟練したパイロットであったことも、マスメディア、そして世間が彼の証言を真剣に受け止めた原因のひとつだろう。

 ところが、彼の目撃以前、それもはるか昔から、謎の飛行物体の目撃記録が数え切れないほど残されていることは、直後の研究ですぐに明らかになった。

 公式の記録をたどると紀元前1450年頃、古代エジプトのトトメス3世時代のパピルス文書には、太陽より明るい5mくらいの火の輪が何日も現れ、やがて空へのぼっていったと記されている。

 紀元前329年には、古代マケドニアのアレクサンドロス大王ことアレクサンドロス3世(紀元前356~323)が、ヤクサルテス河畔の戦いでUFOらしき飛行物体を見たとされている。

 ヤクサルテス川は現在シルダリア川と呼ばれ、カザフスランやウズベキスタンの領内を流れている。前年ペルシャ帝国を滅ぼしたアレクサンドロスの軍勢は、その後も東方に向かって進撃を続けていたが、このとき川の北岸に陣取るスキタイ人の攻撃を受けた。ギリシャ軍がスキタイ討伐のため渡河を始めると、上空に奇妙な飛行物体が現れた。物体は丸い形で、周辺が炎に包まれていたと伝えられる。

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ヤクサルテス川(画像は「Getty Images」より)

 この現象を不吉な前兆と受け取ったマケドニア軍は渡河を翌日に延期したが、渡河後はみごとにスキタイ軍を打ち破り、さらに東方に進んだ。

 さらに9世紀フランスのリヨン大司教アゴバールは、空の上に存在するマゴニアという不思議な領域と、そこから航行する空飛ぶ船について書き残している。実際、マゴニアの船から落ちてきたという男女4人が捕らえられたこともあるようだ。

 そして1561年4月14日の黄昏時、ドイツのニュルンベルクでは、大勢の人間が空を乱舞する奇妙な飛行物体を多数目撃した。

 このときは、血の様な赤や青、黒などの色をした球、あるいは円盤がたくさん太陽の近くに出現し、それらは3個並んだり、4個で四角形になったり、いくつかは単独で運動を繰り返した。そうした球の間に血の色の十字架や、2個の巨大な円筒も現れ、円筒の中には大小の円筒、4個あるいはそれ以上の球があった。やがてこれらの飛行物体が互いに戦い始めたという。戦闘は1時間ほど続き、最後には、すべてが燃えるように落ちて大きな湯気とともに地上で消えたという。

 同様の飛行物体の記録は日本にも残る。

『日本書紀』舒明天皇9年(638年)2月11日の条には、奇妙な星が東から西に飛び、同時に雷のような大きな音がしたと記されている。遣隋使小野妹子に従って随に渡り、24年間にわたり各種の学問を修めた碩学の僧旻は、これを天狗(あまつきつね)と呼んだ。

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『吾妻鏡』(画像は「Wikipedia」より)

 これは大きな音を発する火球のような流星とも解釈されるが、日本最古のUFO記録とみなす者たちもいる。

 鎌倉時代の政府公認の歴史書『吾妻鏡』にも、奇妙な星が観測されたことが記されている。

 嘉禎元年(1235年)9月24日の条には、鎌倉幕府第4代将軍九条頼経に仕える陰陽師安倍資俊が、この日の五更、つまり夜明け前頃、不思議な星が現れてしきりに逆行したり留まったりしたと報告した。これを奇異に思った頼経は、他の陰陽師を集めてその夜空を観測させたが、何も異常はなかった。

 この話は、日本のUFO研究団体「宇宙友好協会(CBA)」によって海外にも紹介されたが、将軍頼経本人がUFOを目撃したという形で世界に広まっているようだ。

 江戸時代には、有名な「うつろ舟」の記録も残されている。

「うつろ舟」についてはいくつもの資料が伝えているが、そのひとつ、滝沢馬琴の『兎園小説』によれば享和3年(1803年)2月22日、常陸国にある小笠原越中守の領地「はらやどりという浜」の沖に船らしきものが見えた。浦人らが小船を出し浜辺まで曳いてくると、その船は丸い形で差し渡しは三間ほど、舟の上部には「ガラス障子」があり松脂が塗ってあった。低部には鉄板が重ねて張ってあり、上部から中を見通すことができた。

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うつろ舟(画像は「Wikipedia」より)

 船内には、髪の長いロシア人に似た服装をした美しい女性が1人だけ乗っていた。女は大きさ2尺ほどの箱1つを持ち、その箱に人を寄せ付けようとしなかった。船の中にはカーペット、水、肉、茶碗、菓子のようなものがあり、見知らぬ文字のようなものがたくさんあった。事件を領主に知らせると出費もかさむので皆で女性をもう一度舟に戻し沖に流してしまったという。

 このうつろ舟は空を飛んだとは記されていないが、ほぼ球形で周囲にへりのついた形がUFOを思わせるとして、江戸時代のUFO事件とみなされることもある。

 他にも、火の玉や人魂、狐火など、夜空を飛ぶ怪光については、古くから日本全土に目撃談が伝わっている。

文=羽仁礼

一般社団法人潜在科学研究所主任研究員、ASIOS創設会員、 TOCANA上席研究員、ノンフィクション作家、占星術研究家、 中東研究家、元外交官。著書に『図解 UFO (F‐Files No.14)』(新紀元社、桜井 慎太郎名義)、『世界のオカルト遺産 調べてきました』(彩図社、松岡信宏名義)ほか多数。
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