中国の「尿買取ビジネス」が変化、日本の医療崩壊へ! 脳梗塞の薬が不足… なぜ?=亜留間次郎

 飲尿療法と呼ばれる民間療法がありますが、人間の尿が生薬になる伝説は古代から存在していたようで、中国では2008年に浙江省東陽市の無形文化遺産に指定された伝統料理「童子尿煮鸡蛋」があります。

 読んで字のごとく子供の尿で煮込んだ鶏の卵です。

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「童子尿」とは10歳以下の男児の尿のことで、大人でも女性でもダメです。10歳以下の男児と明文化されていて、本当に中国の漢方薬の原料一覧に載っています。

「童子尿煮鸡蛋」で画像検索してみると分かりますが、本当に子供が煮るための尿を出している写真が出てきます。

 まあ、そんな謎の漢方薬は迷信ですが、真面目なエビデンスのある西洋医学で人間の尿が薬の原料になっているのは本当です。

 現在、日本も含めた世界中の臨床現場で使われている尿を原料とした代表的な薬には以下の物があります。

ウロキナーゼ、血栓を溶かす薬
ウリナスタチン、急性膵炎の治療薬
ヒト尿カリジノゲナーゼ、血管拡張薬
ヒト絨毛性ゴナドトロピン、排卵誘発剤

 こうした薬は尿以外に人間の組織を培養して作る方法もありますが、コストの問題から中国で尿を集めて原料に精製してもらってからドイツなどの欧州の製薬会社で最終加工する方式になっています。

 そのため、中国で2009年に尿を集めて薬の原料を作るための企業「江苏艾迪药业股份有限公司」が設立され、現在では400以上の子会社が中国全土で尿買取ビジネスを行っています。

 この会社は現在も尿買取を行っていますが、事業が上手く行って尿集め以外にもいろいろな薬業を行っている上場企業です。

 2012年には小学校のトイレにバケツが並べられ小学校が製薬会社に尿を提供していることがニュースになりました。

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 中国でも日本みたいに男は小便器だけが分離しているところが多いので尿集めに便利だったのです。

 実は日本でも1970年代までは自衛隊基地の小便器から集めていたのですが、今は全て下水に流れてしまう普通のトイレになっています。

 ところが、新型コロナの影響で中国で尿集めができなくなると原料の枯渇で大変なことになりました。

 現在日本の医療現場で薬がなくて困っているのが「ウロキナーゼ」です。

 ウロキナーゼは2022年から出荷調整が始まっていたのですが、今年になって本格的に在庫が枯渇してきました。

 ヘパリンは血液を固まりにくくして血栓ができないようにする薬ですが、脳とか心臓の血管が血栓で詰まってしまった人はウロキナーゼで血栓を溶かすしかありません。

 血栓ができてしまった患者には必要不可欠な薬なので、ないと困るどころではありません。脳梗塞で救急車で運ばれた先にこの薬がなければ、そのまま死ぬか、命は助かったとしても障碍者になる恐れがあります。

尿買取ビジネス

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 尿が必要不可欠な薬の原料になっているため、中国では全国規模で買取が行われています。
ウロキナーゼ、中国語では「尿激酶」は中国の国家必須医薬品リストで一番上の重要度に指定されたため原料調達に補助金が出ます。

 トイレにステンレス製の汚染に強い収集用の小便器を設置する場合は補助金の対象になります。

 これを利用して製薬会社の子会社が全国の学校に尿買取を持ちかけています。

 尿の買い取り業者は尿1トンから1100~1500元(約2万1千~2万9千円)の利益が出るので2千人規模の学校なら年間で20万元(約395万円)~30万元(約597万円)の収入になると言っています。

 集めるための小便器は国の補助金で設置できるので学校側としては大変に美味しい副業です。

 子供たちにも保護者にも大勢の難病患者を救うためだと言えば建前も綺麗です。

 医学的には尿を出す人の年齢は関係ないのですが、中国でよくある話で末端業者ほど迷信を信じるので漢方薬の「童子尿」と混ざってしまい、小学校や幼稚園への設置が優先的になっているようです。

 日本では昔は自衛隊基地でやってたぐらいなんで、別に工場でもオフィスでも関係ないのですが、変な迷信が入るのは安定のチュウカクオリティみたいです。

 2012年ごろはバケツを置いていたのに最近は尿収集ビジネスのためにステンレス製の専用の小便器に変えるところが増えている。

 こうした尿買取の相場は普通の人の尿は1kgあたり1.1~1.5元にしかなりません。

 ところが、特別に1kg12元(約237円)と10倍で売れる尿があります。妊婦の尿は特別価格で売れるので産婦人科医院が自分のところに来る妊婦から買い取ることもあるぐらいです。

 中国ではニュースにも大量に出てくる有名な話なので「孕妇尿液每公斤12元」で検索すると沢山見つかります。

 どうして妊婦限定で値段が10倍になるのかと言えば「ヒト絨毛性ゴナドトロピン」は妊婦の尿にしか含まれていないからです。

 妊娠検査で尿をかけると線が出てくる検査キットもヒト絨毛性ゴナドトロピンがあるかどうかを見ています。

 妊婦の尿は不妊治療に重要な排卵誘発剤の原料になっています。

尿以外から作れないのか

 そこまで重要な薬なら尿以外の原料から作れないのかと思いますが、昔は作っていました。

 アボット・ラボラトリーズ社が1978年に腎臓細胞を培養して作られたウロキナーゼを開発してアメリカで医薬品の承認を取得。一時期はアメリカで使用される薬の多くを占めたことがあったのですが、大きな問題が起こり、駄目になりました。

 培養元の腎臓細胞は死産した胎児や生まれてすぐに死んだ新生児を製薬会社が買い取って解体して原料にしていたのです。

 この事件は人道上の問題以上に感染症が問題になりました。

 母子が肝炎やエイズなどの感染症にかかっていると薬を投与された人まで感染してしまう薬害事件が起こったのです。

 このため、現在のウロキナーゼは尿を原料とする物になりました。

 尿より合理的な材料を探したら赤ちゃんの死体になって薬害事件を起こしたのは笑えません。製薬会社が赤ちゃんの死体を買っていたのは1970~1980年代で、実在した事件です。

闇の薬になるのか

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 現在、中国では脳梗塞や心筋梗塞など血栓が出来る病気の治療に薬の需要は増え続けています。

 病人が増えたというより医療水準が劇的に向上して薬さえあれば治療できる病院が増えたおかげで、昔だったらそのまま死んでいた人が助かるようになったみたいですが、安価で確実な効果があるウロキナーゼは極めて重要な治療薬です。

 このため、今まで輸出していた原料を国内で最終製品に加工して中国内で消費する方向にシフトしてきました。

 日本で薬が手に入らなくなったのは原料の枯渇ではなく、原料が欧州の製薬会社に出荷が渋られるようになっただけみたいで、中国政府は国内の原料調達と生産を増やそうとして補助金まで出しています。

 一番の問題は中国製の薬は日本では認可されていません。

 中国から薬を輸入することも使うことも可能ですが、それは同じ成分で同じ効果があっても未承認薬になるので保険診療で使えません。

 もしも、このまま承認薬のウロキナーゼが手に入らなくなると日本中の患者が困るのですが、自由診療で使うために未承認薬を輸入するようなことになれば脳梗塞や心筋梗塞の患者はその場で即決して数百万円の自由診療を受けないと死ぬ状況に追い込まれる致命的な問題が生じます。

 こうした薬は血管が詰まってから使えるまでの時間が限られているので即決即断が必要で金の問題で悩む余地があってはならないのです。

 一番簡単なのは中国の薬を承認することなのですが、日本の薬価は渋いので日本で売っても儲からないから中国から断られる可能性すらあります。

 現在の日本で手に入りにくくなった薬は他にも沢山あります、日本の医療行政の失敗は薬が手に入らない問題として全国的に出始めています。

 医療従事者がやり繰りして凌ぐのも限界が来ました。

 お金がない人でも医療をあきらめなくていい世界一の国民健康保険制度はこんなところからほころび始めています。

資料


・「ウロナーゼ製剤の供給不足に関するご報告とお願い」(持田製薬)
The Case of Abbokinase and the FDA: The Events Leading to the Suspension of Abbokinase Supplies in the United States(ScienceDirect)

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文=亜留間次郎

薬理凶室の怪人アルマジロ男。人間の皮を被った血統書付きアルマジロ。守備範囲は医学から工学、ノーマルからアブノーマルまで幅広く、アリエナイ理科ノ大事典など、くられ氏と共に薬理凶室関連の共著多数。単著に『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』(三才ブックス)がある。よくわからないケダモノなのでよくわからないネタで攻めていきます。

公式サイト http://asai-laboratory.sakura.ne.jp/
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