最後の忍者 vs. 大予言者「アウンバラマ」!? 知られざる大正オカルト決戦がすごかった!
いつの時代も予言者を名乗る者は後を絶たないが、ほとんどの場合、予言・未来予知が当たることはない。当たったとされる場合もそれは内容の曖昧さに起因することは多い。たとえばノストラダムスの“大予言”は詩であるため、そもそも多様な解釈を許容する。解釈次第でいくらでも予言内容を更新することが可能だ。高確率で的中すると言い張る自称予言者たちも、すでに起こった出来事をあたかもそれ以前に予言していたかのように見せるテクニックに長けているに過ぎない場合が多いのが実情だ。
そうした詐欺的テクニックは大正時代の“大予言者”も利用していた。
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※ こちらの記事は2018年9月8日の記事を再掲しています。
予言者ジュセリーノに対する疑問
ブラジルにジュセリーノ・ダ・ルース、通称ジュセリーノという予言者がいる。10年ほど前に日本でもかなり話題になり、彼に関する単行本が何冊も出版された。本人は自分の予言の的中率を90%と豪語し、地下鉄サリン事件や9.11、最近でも、西城秀樹の死去や今年5月1日の大阪地震を予知したと主張している。
しかし、彼の予言を少し詳しく調べると、ある疑惑が生じてくる。ジュセリーノの予言で的中したと言われるものの大部分は、先述の西城秀樹の死去や大阪地震も含め、実際に事件が起きた後で公表されているのだ。事前に発表されたことが確実なジュセリーノの予言について、その的中率を検証したサイトもあるが、結果は惨憺たるものであり、「今年6月に日本で大地震が起きる」という彼の予言も外れている。
勘ぐってみると、ジュセリーノは事件が起きた後で、過去の日付で作っておいた文書に「予言」を書き足して公表しているとも考えられるわけだ。
大正時代の大予言者と忍者の末裔
実は、これとそっくり同じトリックを用いて予言者を演じていた人物が、なんと大正時代の日本にいた。その人物の名は西田香峰。自ら梵名(ぼんめい、サンスクリット語の名前)として「アウンバラマ」を名乗っていた。
大正8年、『最後の忍者どろんろん』(新風舎)の著者で、甲賀忍者の末裔を自称する藤田西湖は、21歳の時にアウンバラマと対面している。当時のアウンバラマは、雑司ヶ谷(東京都豊島区)に大邸宅を構えており、年の頃は50あまり、ヤギひげをたくわえ金縁眼鏡をかけており、背は1.64mくらい、他方体重は75kgはあろうかという脂ぎった男だったという。つねに紫の衣を身に着け、ダイヤモンドをちりばめた金の冠をかぶり、自ら仏陀や如来の化身を称していた。
アウンバラマの邸宅には、朝早くから大勢の書生や信者、来客が詰めかけていたが、アウンバラマ本人は毎日十時頃まで朝寝をしており、その頃やっと起きだして信者の前に姿を見せるのだ。
信者たちは大体、その日の新聞記事を話題にして話し合っているのだが、たとえば明治42年10月27日、日本の初代総理大臣、伊藤博文がハルビンで安重根に暗殺されたという記事が載ったとき、おもむろに姿を見せたアウンバラマは書生に言い放った。
「4年前の10月の日記を持ってこい」
書生がアウンバラマの日記帳をうやうやしく捧げてくると、まずは表紙に記された「明治38年記」という年号をその場にいる全員に示してページをめくり、
「それ、この通り書いてある。……伊藤公は明治42年10月26日午前9時、外国に於いて凶変にたおるべし」
と述べると、そのページをまた全員に示した。
アウンバラマが起こす奇跡がスゴい!
藤田西湖がアウンバラマの邸宅を訪れたときは、ちょうどベルサイユ講和条約の調印が新聞に報じられていた。すると、アウンバラマは藤田の目の前で書生に対し、
「一昨年の日記を持ってこい」
と命じた。書生が日記帳を持ってくると、アウンバラマは悠然とこれを取り上げてページをめくり、
「オッ、これじゃ。講和の調印式は2年後の今月今日になるべしと、6月28日のところに書いてある」
と述べると、ページをトントンと指で叩いて得意げに周囲の客に示した。
アウンバラマの能力は予言だけではない。彼はしばしば仏舎利なるものを口から吐き出したり、相手の頭や体から取り出して見せた。また、客と対談中に突然、
「ただいま、釈尊から、尊いインスピレーションがありましたから、ちょっと失礼する」
と述べて席を立って書斎に引っ込むと、ものの2、3分で墨痕も生々しい文字を大判の紙いっぱいに書いて持参したりした。内容は仏典の一節であり、これを見た誰もが、これほど難解な長文を数分のうちに書き上げるとは、と感嘆するのだ。
アウンバラマの評判は、真言宗の総本山高野山にも伝わり、彼は招かれて高野山を訪れ、並み居る高僧の前で仏舎利を出現させたりもしたという。
忍者が屋敷に忍び込み…… 真実を暴露!
しかし、当時「東京日日新聞」(毎日新聞の前身)の記者としても働いていた藤田は、アウンバラマの能力に胡散臭いものを感じた。そこで得意の忍術を使ってアウンバラマの館に忍び込み、彼の秘密を探った。
するとアウンバラマは、ひそかに朝6時頃に起床し、その日の新聞を読んでから、元どおりに新聞を戻し、過去の日記帳の余白に予言をしたためていることが発覚した。
短時間で長文を書いて見せたのも、そのほとんどをあらかじめ書いておき、何文字かを筆でなぞって、さも今しがた書き上げたように見せかけたものであった。さらにアウンバラマは若いころ、ドサ周りの奇術師の一行に加わっていたことも発覚。仏舎利を取り出す能力は、この奇術の応用であった。
藤田はこれらの事実を連日「東京日日新聞」に書き立てたため、ついにアウンバラマは詐欺罪で捕まったという。
たしかに世の中には不思議な能力を持った人間が実在するが、アウンバラマのような詐欺師も大勢いる。今年、オウム真理教の教祖・麻原彰晃の道連れとして処刑された幹部たちも、犯罪に手を染めた他の信者たちも、麻原という稀代の詐欺師に欺かれた犠牲者といえる面もあるのかもしれない。時には、科学的知識に照らしてこうした能力を懐疑的に検証する姿勢も必要だろう。
参考:『最後の忍者どろんろん』(新風舎)
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