なぜ月面着陸はいまだに難しいのか? 成功率50%… 意外な理由が判明

【概要】

 半世紀以上前のアポロ計画以降、人類は月に降り立っていない。無人月面着陸に関しては近年も複数の国が成功しているが、その成功率は50%程度と高くない。なぜ人類にとって月面着陸はかくも困難なのか。その理由の1つが経験の少なさにあるかもしれない。宇宙飛行や月面着陸は自動車や航空機の運用のようにルーティン化されていないため、圧倒的に経験が不足していることは明白だ。

【詳細】

 民間企業による宇宙旅行が新たなビジネスとして脚光を浴びていたりと、我々にとって宇宙は着実に身近な存在になっている。それでも素朴な疑問として残るのは半世紀以上前の「アポロ計画」以来、人類が再び月面に足を着けていないという事実だ。依然として宇宙がまだまだ“遠い”のはどうしてなのか――。

■月面ミッションは死屍累々

 今年8月23日、インドの月探査機「チャンドラヤーン3号」が月の南極付近に降り立つ快挙を成し遂げ、月面軟着陸に成功した4番目の国としてインドが宇宙分野での存在感をよりいっそう高めている。

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画像は「YouTube」より

 しかしこの朗報のわずか数日前にはロシアの無人月探査機「ルナ25号」の通信が途絶するなど、実は月面ミッションは死屍累々である。昨年には日本初の月面着陸を目指した無人探査機「OMOTENASHI」が、地上との通信が安定せず着陸を断念している。

 インドの今回の成功も2019年の「チャンドラヤーン2号」の月面着陸失敗の痛手を糧にした再チャレンジであった。

 これら失敗に終わった月面ミッションは、ソ連「ルナ9号」による月面への最初の「軟着陸」成功から60年近くが経った今でも、宇宙飛行は依然として困難で危険であることを思い知らせるものである。特に月面ミッションは今もなお困難を極めているのだ。

 これまでの月面ミッションの成功率は50%強であり、地球周回軌道への小型衛星ミッションでも完璧というにはほど遠く成功率は40%~70%程度である。

 それでも有人ミッションではより多くの投資が行われることもあり約98%が成功する。有人ミッションをサポートするために働く地上スタッフは一丸となって粉骨砕身して業務にあたり、経営陣はより多くのリソースを投資し、乗組員の安全を優先するためにスケジュールは柔軟に変更される。

 問題はやはり各種の制約の中で行われる無人ミッションである。多くの無人ミッションが失敗する理由については、技術的な困難や経験の不足、さらには各国の政治情勢からも影響を受けていると考えられる。

 しかし全体像をより明確に把握するには、個々のミッションの詳細から一歩下がって全体的に俯瞰してみる視点も必要であることが、米メディア「The Conversation」の記事で指摘されている。

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「The Conversation」の記事より

圧倒的に足りてない“場数”

 宇宙に向けたロケットの打ち上げは残念ながら我々の“ルーティンワーク”にはまだなっていない。

 世界には約15億台の自動車があり、おそらく4万機の航空機がある。対照的に宇宙へロケットの打ち上げは人類史上まだ2万回未満である。

 自動車では依然として多くの問題が発生しており、より厳格に規制された航空機の世界でもリベットの緩みからパイロットの操縦システムに至るまで今もなお問題が発生している。

 しかし我々は地球上のあらゆる国でこれらの車両や航空機の問題に関して1世紀以上の経験を持っている。つまり問題はあれど、その解決に取り組んできた“場数”をたっぷりと積んでいるのだ。自動車と航空機の運用は我々にとってすでにルーティンワークなのである。

 一方でロケットについてはまだまだ圧倒的に“場数”が足りていないことは明白である。

 したがってロケットの打ち上げや天体への着陸など、宇宙飛行に関することの大部分がコントロールできると考えるのは時期尚早であり非現実的ともいえそうだ。我々はまだ宇宙探査の初期の開拓時代にいるのである。

 人類が本格的な宇宙文明を築き上げるには、数々の大きな課題を克服しなければならない。長期間、長距離の宇宙旅行を可能にするためには解決すべき課題がまだまだ山積しているのだ。

 その問題のいくつかは、より優れた放射線遮蔽、サステナビリティ、自律型ロボット、原材料からの空気と水の抽出、無重力下での生産能力など、実現可能な領域内にあるもののように見える。しかしそのほかには、超光速旅行、瞬間通信、人工重力など今はまだSFな未来技術も残されている。

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画像は「Wikipedia」より

 それでも進歩は小さな一歩を刻みながら少しずつ大きくなっていく。エンジニアや宇宙愛好家は、宇宙ミッションに知恵、時間、エネルギーを注ぎ続け、今後も僅かずつであれ徐々に信頼性を高めていく。つまり“場数”は着実に積み上げられていくのである。そしていつの日か、宇宙船に乗るのが車に乗るのと同じくらい安全になる時代がやって来るのだろう。

 9月7日には鹿児島県の種子島宇宙センターでJAXAと三菱重工業が開発したH2Aロケット47号機の打ち上げが成功し、搭載された無人月探査機「SLIM(スリム)」が年明けにも月面着陸を見込んでいる。成功すればインドに続き日本が遅れ馳せながら月面軟着陸に成功した5番目の国となる。失敗を糧にした“朗報”に期待したい。

参考:「The Conversation」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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