ビンラディンを愛する少年、飛行機を盗んで高層ビルに激突し自分だけ死亡

 世界に衝撃を「アメリカ同時多発テロ事件」だが、実はその半年後にセスナ機が高層ビルに体当たりするという“ミニ911”事件が起きていた――。

■航空科の生徒による“ミニ911”事件

「アメリカ同時多発テロ事件」、いわゆる“911”の首謀者とみられるウサマ・ビンラディン(1957-2011)を信奉する15歳の少年が“911”を再現しようと試み、盗んだ飛行機を高層ビルに激突させて死亡する事件が起きている。

 2002年1月5日、米フロリダ州タンパで、イーストレイク高校の航空科の生徒、チャールズ・ビショップは、セスナ172軽飛行機を占有し、ダウンタウンにある高層オフィスビル「バンク・オブ・アメリカタワー」の側面に衝突させた。この衝撃で少年は死亡し、建物の事務室が損傷したものの負傷者はいなかった。

画像は「YouTube」より

 ビショップは“911”に触発されていたといわれている。彼はウサマ・ビンラディンを賞賛する遺書を残し、自分はアルカイダの代表として行動しているが、アルカイダからの援助を断っていると書き残している。

 当局はテロに関連する証拠を見つけることができなかったため、動機としてのテロリズムは除外され、墜落は明らかな自殺であることを示唆した。ビショップの母親は、イソトレチノインによる精神的な副作用が事件を引き起こしたとして薬剤メーカーに訴訟を起こしたが、その後になって取り下げた。ビショップはうつ病や稀に自殺行為を誘発することで知られるイソトレチノインをニキビ薬として使用していたのだ。

 事件当時、ビショップは航空科の学生パイロットであったが、航空機の操縦は必ず飛行教官と一緒でなければならなかった。

 当日午後5時、タンパから約30キロ離れた「セント・ピーターズバーグ・クリアウォーター空港」でビショップは教官からセスナ172に先に乗り込んで飛行前点検をするよう指示を受けた。しかしビショップは点検などは行わずにエンジンを始動させ、教官がやってくる前にセスナ機を離陸させてしまったのだ。

 驚いた管制官はただちに沿岸警備隊とマクディル空軍基地に連絡し、沿岸警備隊はヘリコプターを出動させた。

 沿岸警備隊のヘリコプターからの度重なる警告にもかかわらず、小型飛行機はバンク・オブ・アメリカのタワーまで飛行を続け、42階建てのビルの28階と29階の間に激突したのである。

「Daily Star」の記事より

■「9.11は完全に正当化される」

 衝突後、2機のF-15戦闘機が現場近くにやって来たが、連邦航空局(FAA)がもう必要ないと伝えたため基地に戻った。飛行機の残骸は何時間もオフィス街の窓からぶら下がっていたが、翌日早朝に建物内に引き込まれて回収された。

 目撃者らは飛行機が建物への衝突を避けようとした様子はなかったと証言し、当局は最終的にこの事件は明らかに自殺だったと示唆した。さらに、残骸から見つかったメモには、ウサマ・ビンラディンへの支持表明が記されていたが、当局はあくまでも自発的な行動であり、テロの可能性を否定した。

「私はこれから犯そうとしている行為に関してこの声明を用意しました。まず第一に、9.11で起こしたテロ行為は完全に正当化されます。彼は強大な国家を屈服させました! 神のご加護がありますように…(中略)…これは私だけが行う作戦です。私には他の助けはありませんが、私は彼らに代わって行動しています」(遺書のメモより)

チャールズ・ビショップ 「Daily Star」の記事より

 事件発生後、数多くの安全対策が講じられ、FAAは事件翌日の1月6日に安全に関する通知を発表した。 この通知には、航空機の安全と未成年の航空学生に関する規制が含まれていた。さらにEAAや他の小型航空機団体は、飛行学校や小型航空機の安全性を高めることを提案した。

 当局は墜落はセキュリティ違反ではなく「信頼の乱用」によるものだと述べたが、そのような行為の単純さからセキュリティ強化の必要性を主張する声もあがっている。

 航空科の生徒がこのような暴挙に出るとは現場では誰も考えていなかったであろうし、事実上、事件の発生を阻止することはできなかったであろう。負傷者がいなかったことは不幸中の幸いである。

 影響力の大きいテロにおいては指揮系統とは無関係の“自発的参加者”の存在が実に厄介なものであることをあらためて教えてくれるケースである。

参考:「Daily Star」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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