ホラー映画の常識を覆す『悪魔がはらわたでいけにえで私』主演・詩歩インタビュー! 撮影裏話&オカルト体験を熱く語る

 世界20ヶ国80以上の映画祭に入選、11 のグランプリに輝く『異物』シリーズなど、国際的に注目される鬼才監督、宇賀那健一の最高傑作『悪魔がはらわたでいけにえで私』が日本で公開!

 本作は、スラムダンス映画祭、ポルト国際映画祭、プチョン国際映画祭などで入賞し、全国40か所以上で公開された短編映画『往訪』を長編化。ホラーの名作や巨匠へのオマージュも散りばめながら、カテゴライズ不可能なクレイジー・スペクタクル・エンターテイメントを完成させた。

 今回TOCANAでは、映画の公開に先駆けて主演女優の詩歩さんにインタビューを行った。撮影裏話や見どころなどに加えて、オカルト体験までたっぷり語ってもらった。

撮影:本間秀明

全ての始まりは宇賀那健一監督のワークショップ

――まずは、今回主演に選ばれたきっかけや宇賀那健一監督との出会いについて教えてください。

詩歩:私はもともとOLでした。7、8年前、「好きなことをやりたいけど、できないよな……」という曖昧な気持ちと、「どうせできないなら、映画監督さんに観てもらってボロクソ言ってもらったら、諦められるんじゃないか?」という幼稚な考えから、宇賀那さんのワークショップに行きました。それがあまりにも楽しかったんですよ。しかも、宇賀那さんに「映画を一緒にやらないか?」と誘われて、『魔法少年☆ワイルドバージン』という作品に出させてもらいました。

 その後、宇賀那さんと役者仲間と食事する機会があって、何気なく私が「自分たちが『おもしろい』と思う映画を撮りたいよね」と熱く話したのがきっかけで、短編(『往訪』)を撮ることになりました。仲間内での会話がどんどん話が進んで決まったんですね。

――オーディションはなかったんですね。ところで、ワークショップが楽しかったというお話ですけれども、どんな点が楽しかったんですか?

撮影:本間秀明

詩歩:ほぼエチュード(即興芝居)で、「こんなセリフはあるけれども、設定は自由だよ」というワークショップでした。自分のアイデアで肉付けしていくんですが、「ええ?そんな解釈になるの?」というのを観るのが楽しかったんですよね。私は「役者さんって凄い!」と思いましたが、「私にはできないかも?」という焦りもあって、「自分だったら、自分だったら……」と考えました。

 そのときの芝居のテーマが「コメディーで悲しい話」で、私は「何それ?無理!」とパニックになりました。でも、芝居の相手の平井早紀(ナナ役)と「世界にオタクが増え過ぎた」という設定を考えて、私はオタクを正気に戻す少女を演じたんですよ。宇賀那さんはそれをおもしろがって「一緒に映画をやろう」と言ってくれました。

――そこから監督は詩歩さんを評価していたんですね。そんな詩歩さんは、今回の映画の脚本を読んで涙したとか?

詩歩:後半は「ギャ」しかセリフがなくて、意味のわからない脚本でした。でも、私はハルカに感情移入できて、「泣く」というト書きのところで泣けたんです。「この意味わかんない脚本を読んで、『泣く』というところで泣けたんだから、ハルカは私にしかできないだろう?」と思いました。しかも、脚本の意味がわかってしまって、興奮して宇賀那さんにメッセージを送りました。「これは、勇者とスライムがいたら、スライム側の話なんですね!」と。でも、宇賀那さんに「意味わかんない」と言われました。私が改めて「クリーチャー側のお話だと思ったんです」と言ったら、宇賀那さんに「そうだよ。最高だろ?」とわかってもらえました。

――詩歩さんはクリーチャー側に感情移入しちゃったんですか……。ちなみに、人間のときのハルカは、悪魔になった友達を平然とぶん殴ったり切り刻んだりしていましたよね。

詩歩:それは映画マジックです。映画のファンタジーな部分とホラーの意味がわからない部分を、いろんなことをすっ飛ばしてやったという感じです。でも、ハルカには人間の感情があって、友達を殴ったり切ったりするとき、私は「これは悪魔の顔をしているけど、友達なんだ。ごめんね」というパニックや悲しみを意識しながら芝居していました。チェーンソーで切って、切って、切って、笑うというシーンは、宇賀那さんの脚本を信じて「ここは笑ってやるんだ」と思ってチェーンソーを振り回しました。本当に感情がグッチャグチャになりますよね。

©『悪魔がはらわたでいけにえで私』製作委員会

「ギャ」だけで会話が成り立ってしまった!

――後半はハルカのセリフが「ギャ」だけになるので、演技が難しくありませんでしたか?

詩歩:最初は「これ、どうすんの?」と迷いましたけど、昔から知っているメンバーで演じたので、「ギャ」だけで会話が成り立ってしまったんですよね。言語の起源をやっているような不思議な感覚に陥りました。私たちの会話でもお互いの関係性や相手の表情を読み取っていますが、言葉を「ギャ」だけにしてもそれができたんですよ。

 ちなみに、悪魔は人間を真似しているつもりなので、たとえば「ただいま」は「ニャニャニャニャ」と言っています。観ている人にも絶対に伝わると思います。

――しっかり伝わりましたよ。そんな悪魔のハルカたちと人間のコウスケが一緒に食事しているシーンもよかったです。

詩歩:あれも宇賀那さんの拘りです。「一緒にご飯を食べることが大事だと思うから、何かしら食わせたい」と。だから、悪魔たち側の緑の液体を人間のコウスケが共食したんです。

©『悪魔がはらわたでいけにえで私』製作委員会

――宇賀那監督からの演技指導はありましたか?

詩歩:宇賀那さんは、自分も役者をやっているからでしょうが、役者を信じてくれる方なので、演技指導はなかったですね。言われたのは「もっとサザエさんみたいにして」くらいです。私たちは最初「ギャ、ギャ、ギャ」と騒いでいただけですが、「ああ、サザエさんか! 『ギャ』で普通に会話すればいいんだ!」となりました。

 長編化で新しく石原(理衣)さんが入ってきました。私は、ちょっと違う「ギャ」が来ると「意外と難しいな。『ギャ』にも距離感があるんだな」と思って戸惑いましたね。でも、最終的には石原さんとも会話になったので、「ギャ」で通じ合えました。

 コウスケ役の野村(啓介)さんはずっと人間役だったので、「『ギャ』の終わるタイミングがわからないから、自分のセリフをどこで発していいかわからなかった」と言っていました。

――特殊メイクについてもお聞きしたいです。

詩歩:宇賀那さんがメイクさんと話し合って、『エクソシスト』のリーガンみたいにしたい、かつ、『死霊のはらわた』っぽさも入れてほしいということで、悪魔っぽいゾンビ系のデザインになりました。メイクさんの拘りで、眉毛を消したり、目の上にゼラチンみたいなものを貼って彫りを深くしたりしました。傷をたくさん付けましたし、胸に十字も入りました。「どのくらい時間かかるか?」というメイクリハーサルがあって、「このくらい時間がかかるから、これはこう短縮したらいいね」と相談しながら、全員1時間くらいで終えていましたね。

海外で爆笑を引き起こした「日本人っぽさ」とは?

――詩歩さんが考える作品の見どころを教えてください。

詩歩:うわっ、難しいな……。でも、気に入っているシーンはやっぱり、悪魔になったハルカが自分の手(チェーンソー)で畑を耕していて、そのときにコウスケと再会するシーンです。あそこはやっていても楽しかったですし、ちゃんと出会えた気がしました。

 それから、音を作ってくださったのが、『スターウォーズ』の小川高松さんやジブリ作品の大川正義さんです。音だけはハリウッド級なので、劇場で音も楽しんでほしいと思います。

――トリノ映画祭(イタリア)やFantastic Fest(アメリカ)でも上映されましたが、海外の反応はどうでしたか?

詩歩:めちゃくちゃよかったです。トリノ映画祭もFantastic Festも満席だったんですよ。海外の方々は、目にドライバーを刺すシーンで “Wow!” “Ouch!” と言いますし、いろんなところで手を叩いて笑ってくれるんです。

 特に「日本人っぽくておもしろかった」と言われたのは、ハルカがお茶を飲んで帰るシーンでした。ちゃんと「ごちそうさまでした」と言っていくのが日本人らしいそうで、そこで爆笑が起きるんですよね。

 遠藤隆太が演じている謎のソウタもウケました。「日本の引きこもり問題を象徴している」と感じるみたいで、ソウタがしゃべると爆笑が起きます。「そこで笑うんだ……」と不思議でしたね。

 起こったことに対してあまり反応しない野村さんも、日本人っぽさと受け取られたようで大絶賛です。取材でも「最高だぜ!」と言われていました。

 海外の方々も悪魔の「ギャ」でずっと笑ってくれましたね。観終わると、私たちに「ギャ、ギャ」と話しかけてくれるんですよ。「よかったよ!」みたいなことを言っていたんだと思います。「『ギャ』は世界を変えるな。言葉は要らないな」と感じる凄い経験でした(笑)。

©『悪魔がはらわたでいけにえで私』製作委員会

――遠藤さんや野村さんのお話も出てきたので、キャストさんの思い出を教えてください。

詩歩:一番「ずるいな」と思っているのはタカノリ役の板橋春樹ですね。タカノリは内臓を持って「ギャ、ギャ」と言っているじゃないですか? でも、ちゃんと「カレーライス、カレーライス」とか言っているんですよ。現場では監督も録音部も気づかなかったんですが、整音のときに「今『カレーライス』って言ったよな?」と発覚しました。そういう遊びをする男なので超ずるいです(笑)。

 平井早紀は短編であれだけ振り切って、『死霊のはらわた』を凌駕したくらいの芝居をしてくれました。悪魔メイクしてからもずっと「ギャ、ギャ」と楽しそうでしたね。

 私は「この二人を超えた個性を出さなきゃいけないのか……」と思って苦労しました。3人のやり合いでしたね。仲が良いからこその「遊び合い」といった方がいいのかもしれませんが。撮影期間も1週間ちょっとだったので、信頼し合っている仲じゃなかったら成り立たなかったなと思います。形になって本当によかったです。

皆さんの肉付けで映画を育ててください!

――今回の撮影でオカルト体験はありませんでしたか? 短編で使用した場所は心霊スポットみたいでしたが……。

詩歩:あの場所は取り壊し予定の納屋で、自由に使えたんですよ。短編のときにものすごい血のりをそのままにしたので、長編で戻って来たとき、壁とかが全部ずれ落ちていました。みんなでジャンプするシーンでは、床が抜けそうでめちゃくちゃ怖かったです。

――幽霊が出るよりも現実的な恐怖ですね。今回の撮影以外でもオカルト体験はありますか?

撮影:本間秀明

詩歩:なんとなくですが2回あります。1回目は、高校生のときに自分の実家で体験しました。その日は、学校から帰ってきてへとへとだったので、2階の自分の部屋で寝ちゃったんですよね。しばらくして、下の階から「ご飯だよ」という母親の声が聞こえて、ハッと目を覚ましたら、少年とお母さんと思われる人に顔を覗かれていたんですよ。目をこすったら、2人の顔は消えてしまいました。ただ、2人は笑っていて、私には「悪い人じゃない」という謎の感覚があったんですね。

 2回目は、会社員になって新しく住み始めた家で、毎日同じ夢を見たことです。いつも同じ男性みたいな存在に右腕を引っ張られる夢です。1週間くらい経ったある日、夢の中で「大丈夫だよ」と話しかけました。そうしたら、右腕を引っ張られる夢を見なくなったんですよ。この夢が気になって夢占いで調べたら、「やりたいことや後悔していることがあるんじゃないですか?」と書かれていました。

――詩歩さんの右腕を引っ張ったのは宇賀那監督の霊魂だったんじゃないですか?

詩歩:うわぁ、怖い! でも、やりたいことをやった方がいいのかもしれないと思ったから、「大丈夫だよ」と言ってしまったのかな? やっぱり宇賀那さんとの出会いにつながっていたのかもしれないですね。

――宇賀那監督に「右腕を引っ張ってくださってありがとうございました」と言った方がいいですよ。

詩歩:今度会ったら言ってみます。「夢の中で右腕を引っ張りましたよね?」と(笑)。

――オカルト体験のある詩歩さんですが、ホラー映画はお好きなんですか?

詩歩:大好きです。今回の映画に関わるようになってから、ホラーばかり見る期間があったんですよ。映画表現としてホラーが一番ファンタジーじゃないですか? たとえば、スプラッターはフィクションだからこそできる表現で、だからこそ自由もあっておもしろいですね。

 最近のホラーは、「THE・ホラー」じゃなくてジャンルミックスになっていて、ホラーにアート味やサスペンスが盛り込まれています。ホラーの新時代が来るんじゃないかな?

撮影:本間秀明

――そんな新時代の象徴が『悪魔がはらわたでいけにえで私』だと思いました。最後に映画を観に来る皆さんへメッセージをお願いします。

詩歩:ホラーが好きな人もホラーが苦手な人も絶対に楽しめる映画だと思います。ホラーが苦手な人は15分我慢してください。15分我慢したら違う世界が見えてきます。そして、何も考えず観てほしいです。何も考えず観て、観終わった後に「楽しかったな」と思ったら、「何で楽しかったんだろう?」と考えて、この物語に自分の解釈で肉付けしてください。皆さんの肉付けでこの映画を育ててもらえたら嬉しいです。

(文=本間秀明)

悪魔がはらわたでいけにえで私

2024年2月23日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、

池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿他 全国ロードショー!

監督:宇賀那健一

出演:詩歩、野村啓介、平井早紀、板橋春樹、遠藤隆太、三浦健人、ロイド・カウフマン ほか

プロデューサー:高橋淳、野村啓介、WATANABE

撮影・編集:小美野昌史/照明:淡路俊之、津田道典/録音:Keefar、茂木祐介/効果:小川高松、Keefar/

音響スーパーアドバイザー:大川正義/衣装:WATANABE/制作:WATANABE、宇賀那健一/制作担当:山口隆実/

制作:株式会社Vandalism/製作:『悪魔がはらわたでいけにえで私』製作委員会

特殊メイク・特殊造型:千葉美生、遠藤斗貴彦/特殊メイク助手:池田恋、森田由華、河口伶/VFX:若松みゆき/

音楽:ILA MORF OEL、Keefar

2023年/61分/日本/カラー/DCP/R15/

配給:エクストリーム

TOCANA編集部

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