『フェイクドキュメンタリーQ』書籍版が爆速で重版決定!その真相を寺内康太郎監督に聞いてみた
■映像の書籍化が初登場1位の衝撃
『フェイクドキュメンタリーQ』は超有名ホラー系YouTubeチャンネル『ゾゾゾ』の皆口大地氏と、『心霊マスターテープ』シリーズで知られるホラーの騎手、寺内康太郎監督がタッグを組んで世に送り出したYouTube発信の新しいホラー映像シリーズだ。
その書籍版が初登場でアマゾン1位、発売わずか1週間で5万5000部という超スピードで売れまくっているのはなぜなのか。
同作品の寺内康太郎監督も首をかしげる。
「僕らもわからなくて、みんな1位に1回なるもんだと思ってましたね」(寺内康太郎監督(以下寺内))
……ジャンル1位ならともかく、全体で1位は奇跡だ。版元の双葉社も騒然。
「そうなんですよね。『フェイクドキュメンタリーQ』(以下Q)のチャンネル登録者数が30万人ぐらいです。下世話な話になりますが、その中から、どれだけの方がお金を払ってくれるかというのは、まったく見えなかったんです。タダで見てる人にどれだけお金を使ってもらえるか? というのが初めて数字になった。意外と皆さん使ってくださってる。本当にいい視聴者さんですね」(寺内)
『フェイクドキュメンタリーQ』はいわゆる心霊ドキュメンタリー、投稿動画に幽霊が映り、「おわかりになっただろうか?」のパターンとは異なる。だいたい幽霊が出て来ないのだ。
じゃあ何が出てくるといわれても大変説明しにくいのだが……22話からなる短編は、心霊写真のように家族写真の加工を依頼される話(『オレンジロビンソンの奇妙なブログ』)やクラスの裏掲示板に隠しリンクがあり、そのリンクをたどると誰とも知れない人物の情報が次々に現れる(『隠しリンク』)、エレベーターの監視画像に残された無限に降下していくエレベーターと中に閉じ込められた女性の運命(『BASEMENT』)など人間が持つ奇妙なもの、間尺に合わない、語彙を超えた何か。そんな何かに対する不愉快さと好奇心が刺激される。
言い換えれば……イヤなもの。イヤなものが出てくる。
「見た人は異質なものを見せられている感じだと思いますね。これはなんとかさんの飲み会で撮影した映像です、そういうのはやらないですからね。幽霊と一番縁遠い。実際はいわゆる心霊ドキュメンタリーというジャンルにQも入れられてしまう。大きく分けるとそうなんでしょうね。幽霊は出て来ないんですけどね。なんか嫌な感じ、怖いというより嫌な感じ、どれもね。嫌なほうが得意なんですよ。嫌だなと思えることも、僕は心霊ドキュメンタリーでもやっていたので、僕にはそれが怖いのかもしれない」(寺内)
■ジャンル分け不能のホラーヌーベルバーグ
映像も変だが、書籍も変だ。だいたい映像作品を書籍化したこうした本は、ノベライズか設定資料集か製作秘話になるものだが、『フェイクドキュメンタリーQ』はいずれでもない。
書籍で紹介されている6話+書き下ろし2話は、フェイクとして作られた映像で説明されなかったバックグラウンドや経緯が語られ、さらに映像世界を深化させる設定や資料が追加されている。副読本でもないし、何といえばいいのだろうか。しかもQRコードでYouTubeの映像に飛ぶことができる。書籍というアナログの媒体で、やっていることはゲームのようなデジタルなギミックなのだ。
「YouTubeというものの書籍化として一番避けたかったのは、ただ単に文字のものを書き起こすことでした。ちょっと内容を足すとか、そういうのはあるんでしょうが、それがノベライズ版と呼ばれるのはつまらないなと思っていました。どうせやるなら、何かしらの後日談であったり、新しい映像とか音声を入れようと。我々は映像制作集団なので文章での表現は、他の作家さんのようにできない。だから作家さんにはできないことをしよう、それしかないと考えて、それは入れさせていただきました」(寺内)
山の中で謎の白装束集団に襲われる話(『Sanctuary』)は、映像版では彼らが何者なのか、一切の説明がない。書籍版には、その背景として、なんと小学生の自由研究が追加されている。小学生が自由研究で町の歴史を調べ、かつて呪い山と呼ばれる聖地があったことをつき止め……という話だ。だから子どもの書いた自由研究が書籍では紹介されている。
「あれを作ったのは僕です」と寺内監督。
「小道具は僕が全部作ってるんです。相手になりきって、いわば憑依して作るんですけどね、いつも。そういうのは楽しいんですよ。なんか、本当に気持ちがバーっといろんなものになりきると楽しいんです」(寺内)
器用すぎる。親戚の子どもに頼んだと思ったぐらい、字も絵も子どもだ。これは元々『Sanctuary』を撮った時に設定されていたのか?
「イメージとしてはあったんですけど、その表現を誰がするか、子どもの絵については後で考えてますけど、でもやっぱり背景みたいなのは考えないと。闇雲に適当な謎っぽいことだけ散りばめるっていうのはバレるんですよね」(寺内)
■考察する面白さと考察される面白さ
現在のホラーはファンによる考察がブームを支えている。考察という形でファンは作品に関わり、作り手を越えて想像を広げる。昨年から話題の『近畿地方のある場所について』(背骨/ KADOKAWA)や『変な家』(雨穴/ 飛鳥新社)も、読者が作品の考察に参加できるように設計された新しいタイプの小説だ。雑誌やネットの書き込みといった情報の断片を並べ、それがつながっていくことで物語に通底する不気味な怪異が姿を現す。
『Q』にも同じことが言える。『Q』には考察してくださいと言わんばかりの正体不明さがあり、書籍版は考察の1つを提示したに過ぎない。
「今の現代ホラーファンの方って、本当にすごく考察が上手だったり、解釈や言葉にする語彙力の高さが素晴らしい方たちです。その方たちを信頼していなければ、そこで終われないと思うんです。背景もオチもきっちりつけないといけない。でもそこら辺は視聴者を信頼している分、今の形で終われるっていうのはありますね」(寺内)
今までの作品=物語が完全にパッケージ化され、料理であれば、前菜から始まりデザートで締めるという作り手に身をゆだねるものに対して、「Q」をはじめ、最近のホラーはバーベキューのような、読者が作品に参加する面白さにフォーカスしている。
「実際コメント欄も結構盛り上がっていますね。最初はまったくそういうつもりがなく始めたんですけど、何か考察するムードが生まれて、考察が当たり前のようになっています。最初から一切狙ってないのですが、気がつけば考察されていました」(寺内)
作品世界を考察し、どっぷりハマりたいというのは、その世界観に強烈な馬力がある証拠だ。進撃の巨人もエヴァンゲリオンも、ファンの考察で一大ブームを巻き起こした。
『Q』の世界を表現する言葉は難しい。従来の心霊ドキュメンタリーと根本的に違うからだ。奇妙な世界としか言いようがない。世の中のすき間で見つけた恐怖をクローズアップしたら、世界の骨組みが揺らぎだした、みたいな不穏な空気。
「星野源さんがQ好きらしいので、何かうまくジャンルに名前を付けてもらえたらうれしいですね」(寺内)
トカナ読者であればツボにハマること間違いなし、必見かつ必読の『フェイクドキュメンタリーQ』ワールドである。
寺内康太郎
映画監督、『ほんとうにあった怖い話』シリーズや『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズなどの心霊ドキュメンタリー以外にもテレビドラマや映画も多数手がけている。
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